コアネット教育総合研究所
横浜研究室 室長 福本 雅俊
以前、小欄で学習観を取り上げました。これは、学習に対する考え方や捉え方、つまり価値観を意味します。言い換えれば、「学習に対する信念」とも言えるでしょう。今回は、学習成果に対する「気持ちの持ちよう」とも言えるマインドセットを取り上げたいと思います。
いま先生方が目の前にされている生徒のみなさんは、学習成果に対してどのような捉え方をされている生徒が多いですか?
感覚的にも、前者の捉え方をしている生徒のほうが学力を伸ばすことができていくという見込みを持てると感じられるのではないでしょうか。
これがマインドセットという概念です。これは、キャロル・S・ドゥエックによって提唱された考え方です。
という形で整理されています。先ほども述べたように、前者のマインドセットを持っていることが学習面においても良い結果をもたらすとされています。学習観にも近いものであり、自己調整学習につながりやすい学習観と同じように、できれば生徒たちには成長マインドセットを持ってもらいたいものです。ただ、これまでの他のキーワードで言及している通り、価値観や考え方を変えていくということは一筋縄ではいきません。
では、生徒が成長マインドセットを持てるようにするために、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。
ここで触れておきたいのが、随伴性の認知という考え方です。随伴性の認知とは、自分の行動が結果としての成功や失敗につながっていると認知すること、です。すなわち、自分の努力によって目標が達せられるという経験をどれだけ積んでいるか、ということが成長マインドセットを獲得するためには大切ということになります。
学習性無力感という言葉を聞いたことがありますでしょうか?これは、セリグマンらによって明らかにされた概念ですが、自分が何かしらの行動をしても結果には影響しない、という経験を積み重ねることによって「努力は結果につながらない」という認知を後天的に獲得させてしまうという考え方です。まさに、随伴性の認知です。
つまり、自分自身の努力によって好ましい結果につながっていくという経験を生徒たちに積ませることにより、「努力⇒結果」という随伴性の認知を獲得させることが、成長マインドセットを獲得させるためのひとつめのポイントということになります。
そうはいっても、努力を結果に結びつけていくために、良質な努力が伴っていなければ結果は出ず、「努力⇒結果」という随伴性の認知を獲得させることには到りません。ここでもうひとつ着目しておきたいのが、バンデューラの提唱する結果期待と効力期待という考え方です。
前者の結果期待は、まさに随伴性の認知にあたるものであるとすぐにご理解いただけると思います。
効力期待とは、たとえば「次の英語の定期考査の目標である90点以上の達成に向けて、一日3時間、試験まで毎日勉強すれば目標は実現するだろう」という結果期待(結果への見込)に対して、それができるかどうか、ということへの期待を指します。
いくら結果期待を持てていたとしても、その努力を自分ができるという見込を持つことができていなければ、行動(努力)にはつながりません。
だからこそ、効力期待を高めていくためにも実行可能な学習方法を教示して、結果期待だけではなく、「これであれば自分にも努力できそうだ」と生徒たちに感じさせていくことが必要になるのです。学習観の時にも触れた、学習方略の提示ということにつながっていきます。
すなわち、生徒の主体的な学習を促進していくためには、効果が期待でき、かつ生徒にとって過重な負担にはならない方略を教示していくということが、先生方による介入には求められているということになるのです。
特に中高一貫校の場合、6年間という時間があるなかで、先取り学習をしたり、難易度の高い演習問題に取り組んだりすることだけでなく、より効果につながると期待できる、また自分にもできると思える方略を獲得するための介入をおこなっていくということが、今後求められる一貫教育の形なのではないでしょうか。