学校改革への道『こうしたら学校は変われる!』(2)

学校改革への道『こうしたら学校は変われる!』(2)学校の未来が見えますか?

コアネット教育総合研究所 人事コンサルティング事業部 事業部長 嘉村 謙一郎

学校経営にもビジョンが必要

 前回は、学校改革の第一ステップとしての「危機意識の共有」までお話をしました。ここまでだと、危機感だけが蔓延して、「あー、うちの学校大変だー!」と大騒ぎになってしまうかもしれません。

 実は、改革のスタートは本来3点セットなのです。一つは「危機意識の共有」ですが、あとの二つは、「ビジョンの共有」と「方針の明示」です。つまり、現状の厳しさを認識すると同時に、「明るい未来」を見せ、そして、その明るい未来に向けて「進む方法」を示すことが必要だということです(図表1)。今回は、この話を進めていきましょう。

 「ビジョン(=vision)」という言葉は、学校現場では普段あまりお使いにならないかもしれません。辞書を引けば、「将来の見通し」「構想」「未来像」などという解釈がついています。企業経営ではこの言葉はよく使われますが、経営用語としては、もう少し「意志」を前面に出した意味で使われている場合が多いと思います。つまり、「自ら描く将来像」「将来ありたい姿」というような意味です。

 ここでは、学校経営にも「ビジョン」が必要だということをご説明していきたいと思います。

 学校は、特に私学は、ほとんどが「建学の精神」を受け継いでいらっしゃると思います。これは、学校が創立された時点での創立者の掲げたビジョンです。「こういう生徒を育てたい」「こういう学校でありたい」という思いが強く打ち出されていたと思います。しかし、多くの私学が創立から長い年月を経ています。創立当時は分かりやすく表現されていた建学の言葉も、年月を経て「古臭い」言葉になってしまい、下手をすると、読んだだけでは生徒にも先生にも理解されないものになっていることもあります。また、時が経つにつれ、世の中は変化していきます。学校が社会に出て有為な人間を育てることを目的とするのであれば、社会の変化を無視することはできません。

 従って、我々がここで「ビジョン」という場合は、「建学の精神」や「教育理念」とは別のものとして捉えています。「建学の精神」が、学校が存続し続ける限り受け継がれるものであるのに対し、「ビジョン」は時代に合わせて変わり得るもの、有期のものと考えています。

学校を取り巻く環境の変化を反映する

 現在、学校経営は、大きな節目を迎えています。それは、少子化による児童・生徒数の減少ということだけではなく、高度成長社会から成熟社会へ、工業化社会から情報化社会・知識社会へ、高齢化問題、地球環境問題……。様々な変化が起こり、または起ころうとしています。

 このような時代の転換期にあって、学校も新しいビジョンを必要としていると思われます。建学の精神を受け継ぎながらも、新しい時代に合わせた「ありたい姿」を描き直してみることが必要だと思います。

 これは、教職員一人ひとりが考えるという性質のものではありません。どちらかと言えば、経営トップが決定する事項です。「この学校は、こういう学校を目指している」という明確な姿を経営トップが考え、教職員全員に指し示す必要があります。具体的には、校長が様々な条件を勘案した上で、作り上げ、理事会や評議員会の場で承認を得るというステップになるのではないでしょうか。

ビジョン検討には教職員の意見が必要

 ここで問題なのは、校長が勘案すべき「様々な条件」です。先ほど申し上げたような「社会の変化」、「時代の求める人間像」のようなものもその一つです。また、教育界の動きも見ておく必要があります。大学の変化は、中学校や高等学校の経営に影響を与えることもありますし、様々な制度・政策の変更がこれからの学校経営のあり方に変化を与える場合もありますので、注意を払っておく必要があると思います。さらには、現在の在校生や受験生のニーズも近未来を代表する意見として重視する必要があるでしょう。

 そして、最も気をつけなければならないのは、「教職員の意見」です。先ほど「教職員が考える性質のものではない」と申しましたが、だからと言って無視してよいものではありません。教職員は、みなさん自分の教育についての誇りをお持ちです。そして、その内容は様々です。従って、全員の意見を取り入れることなど到底無理なのですが、逆に、完全に上から押し付けるのは嫌がられます。

ビジョンは共有しなければ意味がない

 冒頭にも書きましたが、ビジョンは「共有」することが大切です。教職員全員がきちんと理解し、それをベースに仕事をしていこうと思わなければなりません。そのためには、作り上げるビジョンに納得性が必要になります。

 この場合、微妙なのですが、内容自体が全員の納得するものになるのは不可能ですから、これを作り上げるプロセスに納得性を持たせることが重要になります。全員の意見を聞き、それを最大限に活かしながら、みんなで議論をした結果、ビジョンが出来上がったということでなければなりません。このプロセスを経ないで作ってしまうと絵に描いた餅になってしまい、格好いいビジョンが出来上がったが、お題目だけで中身は何も変わらないということが起きてしまいます。これは気をつけなければなりません。

ビジョン策定のポイント

 それでは、ここで「ビジョン」策定の視点を挙げてみたいと思います。私は、図表2に挙げる7点を重視すべきポイントと捉えています。

 1と2については、これまでにお話をしてきたところです。3の「独自性」ということも意識しておく必要があります。

 学校選択制が一般化してきている現在、公立学校でも独自性の視点が必要です。また、私学であれば、公立に対し「高い授業料を払っても通いたい」と思わせる優位性が必要ですし、他の私学との比較にもさらされています。こういう言い方は学校には当てはまらないと思いますが、学校といえども他校と「競争関係」にあるということです。受験生の人数が定員を割り込む時代になった現在、言葉は悪いですが、「生徒の奪い合い」になっています。つまり、受験生に、自校を選んでもらうためには、独自の何かがなければならないということです。

 このように言うと、学校は競争が厳しくなって、競争に負けると潰れるというように言っているように聞こえるかもしれませんが、そういうつもりはありません。各校が受験生のニーズに合った多様な教育を提供する努力をしていけば、一部の学校への集中がなくなり全体として学校同士が共存共栄していけると思います。各校が独自性を強調していくことが学校全体の発展につながるものと確信しています。

ビジョンにはストーリーが必要

 話が少し逸れましたが、続いて4「明瞭性」のポイントですが、これは言うまでもありません。分かりやすいことが重要です。くどくど説明しなければ理解できないものは、ビジョンとしては不適切です。また、誤解されないような言葉とすることも必要です。

 5「物語性」は少し説明が必要かもしれません。ビジョンは或る一つの「姿」を表しているわけですが、それはあまりに静態的なものであってはなりません。その姿を活き活きと描く必要があります。もちろん、ビジョン自体は言葉で表現することが多いので、どうしても静態的に描かれてしまいます。その言葉だけでは、本当に目指している姿を表現できない場合も多いと思います。

 この場合、大変役立つのが「ビジュアル」です。視覚的に訴える方法をとるとイメージが伝わりやすくなります。具体的には、ビデオなどの映像で補完すると分かりやすくなります。ビジョン自体は言葉で表し、その背景にあるストーリーをビデオなどで表すと効果的に伝わる場合が多いのです。例えば、学校が目指す人間像が「国際社会で活躍する人」であれば、英語でプレゼンテーションをしている人の映像を見せることでイメージが湧きやすくなったりします。

 これは表現の一つの方法ですが、ともかく、ビジョンが言葉だけでなく、背後にイメージやストーリーを持っているものだということが重要なポイントなのです。

ビジョンは10~20年先の目標像

 6「継続性」は期間の概念ですが、先述した通り、ビジョンは建学の精神のように、半永久的なものではなく、一定の期限のあるものです。しかし、1年や2年で変わるものではありません。学校として腰を据えて取り組めるスパンを考えた方がいいと思います。だいたい、10~20年程度の将来を考えて検討していけばよいのではないでしょうか。

 7「実現性」は、単純なようで忘れがちなポイントです。検討しているうちに、どんどんビジョンが壮大になっていき、結果的に実現できそうもないものが出来上がるということはよくある話です。くれぐれも教育活動として実現できる範囲にとどめることに気をつけてください。

ビジョンは3つある

 ここまでご説明してきた「ビジョン」は、主に「育てたい人間像」といったような「教育ビジョン」のお話でした。これは学校にとっては、最も大切な目標像で、経営の根幹にあるものです。しかし、学校経営という観点から言うと、さらに考えておきたい「ビジョン」があります。それは、「学校組織ビジョン」と「教職員ビジョン」です(図表3)。

 「学校組織として10年後(20年後)にどうありたいか」というのが「組織ビジョン」です。例えば、「教職員が互いに協力しあいながら、生き生きと仕事をしている組織」というようなものです。教育ビジョンが生徒を中心に語っていたのに対し、学校組織を主語に置いたものです。将来ありたい職場の姿だと思えば分かりやすいと思います。

 一方、「教職員ビジョン」というのは、「あるべき教職員の姿」です。例えば、「常に新しいことにチャレンジし、自ら成長しつづける教職員」というようなものです。今度は、教職員を主語に置いた考え方です。

 「教育ビジョン」「組織ビジョン」「教職員ビジョン」。この3つを策定し、全員で共有することが大切です。そして、これらは矛盾したものであってはなりません。それぞれが有機的に結合し、一つのものとして動くことが大切です。

 

 このように、一方で現状の危機的状況を認識しつつ、目指している明るい未来を共有することで、明日への一歩を踏み出す足がかりになるのだと考えています。そして、もう一つ必要となるのが現在から目標像へ向かう道筋を示すことです。目指すべき場所は分かったけれども、そこへ行くための地図がなければ歩み始めるのは不安です。完全で詳細な地図を描くことはできませんが、おおよそのルートマップをつくることが必要となります。

 次回は、そのあたりをご説明したいと思います。

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