コアネット教育総合研究所
横浜研究室 室長 福本 雅俊
自己決定理論は、デシ博士とライアン博士が提唱した動機づけに関する理論です。この自己決定理論が提唱されるまでは、動機づけの研究においては外的な刺激による動機づけだけを焦点化した理論が中心でした。
例えば、行動は報酬によって動機づけられるとする「オペラント条件づけ」などです。しかし、自己決定理論では内なる心理的欲求や、課題そのものによっても人の行動は動機づけられるとして自己決定理論が展開され、動機づけの捉え方に幅が生まれてきました。
具体的には、まず動機づけを大きく3つの段階に分類をしています。
(1)無動機:動機づけがない状態
(2)外発的動機づけ:外部からの刺激に応じて動機づけられる状態
(3)内発的動機づけ:課題そのものにおもしろさや、やりがいを感じ動機づけられる状態
当然、内発的動機づけが最も自律性が高く、無動機は動機づけがない状態ですから最も自律性が低い状態ということになります。
そして、一番の特徴は外発的動機づけにおいても、自律性によって4つの段階を整理している点にあります。それぞれの動機づけの源を整理しましょう。
(2)-1 外的調整:罰を回避する、報酬を得る
(2)-2 取り入れ的調整:ばかにされるのを避ける、賞賛される
(2)-3 同一化的調整:自分にとって必要、重要だと思う
(2)-4 統合的調整:自分の夢や目標を叶えることと一致している
いずれも外部からの刺激に応じているため、外発的動機づけに分類はされますが、1から4になるにつれて、自律性が高い状態となります。当然、自律性が高くなれば高くなるほど、良質な動機づけであるとされています。
動機づけは、人の情意に関わる部分ですから、時に応じて動機づけは変化する可能性はもちろんあるものであり、学習する教科等によっても異なるでしょう。子どもたちの様子、学習態度を見取り、どの段階にあるのかを見極めながら指導に当たっていただきたいと思います。
その時に、意識していただくべきポイントを2つお伝えしたいと思います。
動機づけは、ないよりもあったにこしたことはありません。最も良くない状態は、無動機の状態です。
どうしても、イメージとして外的調整は良くないものである、という印象になりがちです。もちろん、より自律性の高い動機づけを獲得させていくことは目指すべき方向性ということになります。
しかしながら、大切なことは動機づけをより良質なものに「移行させていく」という考え方です。外的調整の段階にある生徒に対して、それを叱責したり諭したりするのではなく、その生徒の「状態」であると捉えるようにしましょう。
先生方の関わりによって、その「状態」を転換させていけば良いわけです。
では、どのようにすれば自律性の高い動機づけの獲得につながるのでしょうか。それは、3つの心理的欲求を満たすことであるとされています。
一つひとつ、見ていきましょう。
(1)自律性:自分自身の意志によって行動したいという欲求
(2)有能感:自分自身の力によって「できる」ようになりたいという欲求
(3)関係性:他者や集団と緊密で良好な関係性を構築したいという欲求
これらの欲求を充足させられるような働きかけをしていくことによって、自律性のより高い動機づけへと移行させていくことが可能になります。
動機づけに関して間違いなく言えることは、良質な動機づけを持った状態のほうが、より良い学習行動が促進されるということです。一方で、動機づけは情意的なものであり、情意を転換させていくということは非常に難しいことでもあります。
ただ、学習するという行為は行動レベルのものになりますから、そこを変化させたり、そのために介入したりすることは比較的容易なのではないでしょうか。
したがって、上記ポイント(2)を意識した生徒への働きかけを考えて、実際の行動に落とし込んでいただくことが、最終的により良質な動機づけを獲得することにつながっていくはずです。
変化の激しいこれからの時代、常に学び続け、アップデートをし続けなければなりません。その学びを支えるのが動機づけです。そこにアプローチしていくことは非常に重要な教育の役割だと思いますが、一方、中高6年間で完全に自律的な動機づけを持った状態になるということはなく、一生変化し、時に応じて移り変わる動機づけを場面場面に応じてメタ認知し、次のアクションを生み出す力こそ、必要になってくるでしょう。