グローバル教育の実態と学校選択の視点
解説:コアネット教育総合研究所 和田真洋
コアネット教育総合研究所では2013年9月に、中高一貫校のグローバル教育の実態を調査するために、「グローバル人材育成に関するアンケート調査」を全国の国公私立中高一貫校を対象に行いました。今回はこの調査も参考にしながら、中高一貫校におけるグローバル教育の実態と、グローバル教育に着目した学校選択について書いていきたいと思います。
グローバル社会の到来
この数十年で社会は大きく変化してきました。
近年で言えば、一つは社会のグローバル化があると思います。30年前・40年前からは考えられないほど輸送・移動技術や通信技術が発達し、世界の国々の“距離感”が大きく縮まっています。インターネットを使えば、世界の裏側で起きていることでもリアルタイムで知ることができる時代です。グローバル化は経済においても生活においても、避けては通れない大きな変化として、今後もより進んでいくと考えられます。10年後・20年後、ちょうど現在の中高生が社会に出て働くころには、今よりずっとグローバル化は進んでいるはずです。
中高一貫校におけるグローバル教育
そこで必要となるのが、10年後・20年後のグローバル社会で活躍できる人材の育成、いわゆる「グローバル教育」です。大学におけるグローバル教育の充実と並行して、海外留学や国際バカロレアの推進、スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)など、中高生へ向けたグローバル教育の充実が国をあげて行われています。
学校現場においても国公私立を問わず、中高生へ向けたグローバル教育の充実は積極的に行われています。「英語教育の充実」や「交換留学生の受け入れ」「海外留学制度」などの基本的な取り組みから、「国際バカロレア」や「海外ボランティア活動」などといった先進的な取り組みまで様々なグローバル教育が行われています。
実際に、全国の国公私立中高一貫校の約89%が、今後のグローバル社会を意識した教育を行っていると答えています。全く意識していないのは全体の0.3%で、ほとんどの学校で何かしらのグローバル(もしくはそのエッセンスの入った)教育が行われているようです(図表1)。
ここからは弊社が実施した調査結果ももとに、中高一貫校におけるグローバル教育の実態を少しだけ見ていきたいと思います。
想定するグローバル社会とそこで必要になる力
各学校ではどのようなグローバル教育が行われているのでしょうか。
次の図表2は、各校がどのようにグローバル社会を捉え、それに対してどのような力をつける教育を行っているかをまとめたものです。
青い棒グラフは、各学校が考える「グローバル社会において活躍する人材に必要な力」を回答が多い順に左から並べたものです。学校それぞれの方針はあると思いますが、「コミュニケーション力」「多様性を受け入れる力」「相手を理解する力」「プレゼンテーション力」といった力については、60%を超える学校がこれからの社会で活躍するのに必要だと考えているようです。
一方で、実際に「学校の教育において身に付けさせることができている力」を回答してもらったのが赤い棒グラフです。青い棒グラフ(必要な力)同様に、「コミュニケーション力」「多様性を受け入れる力」「相手を理解する力」「プレゼンテーション力」の回答が多くなりました。ただ一番多かった「コミュニケーション力」でも39%と、青い棒グラフに比べて低い結果となりました。何かしらの理由により、重要だとは考えているが実行まではできていない、という状況が少なからずあるようです。
その理由の一つと考えられるのが、グローバル教育が実施されている授業数です(図表3)。
全体の約36%が、「英語の授業とは明確に異なるグローバル教育は特別行っていない」と回答しています。また約17%が「特定の学年で年間数時間」、約10%が「6年間を通じて年間で数時間」と、60%を超える学校が日常的な取り組みとしてグローバル教育を行えていないことがわかります。ただこれらの学校においては、通常の授業の中で、グローバル教育のエッセンスを加えた授業が行われているのではないかと推測します。
グローバル教育における英語教育
次に見るのがグローバルには欠かせない語学教育、英語です。図表4は、英語教育で身に付けさせる力として「文法」「語彙力」「ライティング」「スピーキング」「リーディング」「リスニング」の6項目をあげて、その優先順位(1~6位)を調査したものです。結果を見ると「リーディング」「文法」「語彙力」を優先順位の上位に答えた学校が多くあることがわかります。一方、「リスニング」「ライティング」については優先順位4・5位の割合が多く、「スピーキング」については優先順位6位と答えた学校が40%を超えています。
今回上位になった身に付けさせる力は、主に受験英語とも言えます。中高一貫校にとって大学受験は無視できないものです。そのためペーパーテストで見られる「リーディング」「文法」「語彙力」が上位になったのではないでしょうか。また優先順位6位の「スピーキング」については、教育活動としては多くの学校で実施されているものの、「大学受験」と比較すると、どうしても優先順位が下がってしまうのかもしれません。
「グローバル教育」に着目した学校選択の視点
ここまで見てきたように、程度こそあれ多くの学校においてグローバル社会を意識した教育が行われています。「どの学校が良い」「この教育活動が良い」という絶対的な答えはありませんが、グローバル教育に着目した学校選択の視点について、まとめてみたいと思います。
(1)その学校における「グローバル」の定義とそのための教育活動
多くの学校がグローバル教育を行ったり、行おうとしていますが、それにより生徒に身に付けさせようとする力は学校それぞれです。「今後のグローバル社会をどのように捉え、そしてその社会で活躍するためにどのような力を身に付けさせているか」は、学校を見る視点として必要ではないでしょうか。またその力を身に付けさせるための具体的な教育活動や、私学であれば建学の精神とのつながりも重要だと思います。
(2)英語教育のスタンス
図表4で見ましたが、多くの中高一貫校の英語教育において、大学受験へ向けた英語力に優先順位が向けられています。ただグローバル社会においては、試験で得点できる英語力だけではなく、人に伝わる英語も同時に重要になると思います。単に「スピーキングに注力している学校が良い」という訳ではありませんが、「受験のための英語」と「人に伝えるための英語」のバランスを確認することは必要なのではないでしょうか。
(3)海外大学への進学やそのための体制
3つめは海外大学への進学者数です。ここで見たいのは、単に実績がでているかどうかではなく、海外大学進学に対する学校としての姿勢です。海外大学への進学の肯定的なのか、否定的なのか。肯定的であれば、海外大学進学へ向けた進路指導やフォロー体制は整っているのか。生徒が“勝手”に進学した「海外大学1名」ではなく、学校として生徒をサポートした結果の「海外大学1名」であることが大切だと思います。
今後の学校選択においてお役になれば幸いです。
(2014年4月)