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先進校レポート

聖心女子学院中等科・高等科 大山先生・森谷先生

 東京都港区にある聖心女子学院初等科・中等科・高等科(以下、聖心女子)は、1908年(明治41年)に、オーストラリアから日本にやって来た4名の聖心会修道女によって設立された女子校です。1801年フランスのアミアンで女子のための寄宿学校として創立された背景を持ち、その姉妹校の数は国内6校、海外で32か国に広がっています。また、2008年(平成20年)には、女子の発達段階に応じた学びの実現のため、4-4-4制を開始しています。
 共生の姿勢と広い視野を持ち文化交流を深めながら、世界の人々と関わり活躍する力を育てる同校の国際教育について、校長の大山江理子先生と中等科・高等科教諭の森谷悠希先生にお話を伺いました。

聖心女子学院の国際教育では、どのようなことを大切にしているのでしょうか。

校長 大山江理子先生

 本校では、「グローバルマインドを育てる教育」と言っていますが、本校創立者はフランス人で、姉妹校は世界全体に広がっており、国際的な視野のある子女を育てるという伝統があります。国際関係のお仕事のご家庭や海外勤務されるご家庭なども非常に多く、日本人初の国連難民高等弁務官である緒方貞子さんのような大先輩もいらっしゃいます。

 本校の教育を通して、生徒たちの多くが、英語を学んで広い視野を持ち、国際的に活躍したいと希望を持つため、私たちは様々な機会を創出して、生徒たちの力を伸ばすようにしています。本校の教育理念は、「一人ひとりが神の愛を受けたかけがえのない存在であることを知り、世界の一員としての連帯感と使命感を持って、より良い社会を築くことに貢献する賢明な女性の育成を目指す」ことです。たとえ日本にいたとしても、世界の一員であり、必ず社会と関わるため、そこに何か働きかけるという考え方があり、そのような資質・価値観・行動力のある生徒を育てたいと思っています。

 具体的には、聖心姉妹校で連携してフィリピン・韓国・タイ・カンボジア・台湾と繋がりをもち、体験学習という形で現地と関わりを持っています。カンボジア体験学習については、15年以上も続いています。聖心は欧米諸国とも関わりますが、アジアの国々との繋がりを大切にし連携しているのは、アジアの一員としての意識を育てることを重視しているからです。実際に姉妹校がある韓国と台湾は、お互いの生徒同士が行き来する交流があります。

カンボジア体験学習は15年以上も続いていらっしゃるのですね。

中等科・高等科教諭 森谷悠希先生

 本校は、フィリピン・韓国・タイとはそもそも繋がりがありましたが、カンボジアとは当初、具体的な関わりを持っていませんでした。ちょうど、ポル・ポト政権が収まりカンボジアが平和になりつつある時期に、カンボジアに関わっていらっしゃる方とご縁があって、カンボジアに行くことになりました。当時はまだリスクを抱えながらではありましたが、現地に赴いて平和について学ぶことは非常に重要だと考えました。

 現在に至るまで、この体験学習を続けていますが、現地での体験内容は初期の内容とかなり違ってきています。カンボジア国内では、つい最近まで裁判もしており、現在でもポル・ポト政権の様々な影響が残っています。そのような状況にある国において、どのように平和を構築するかということと、近年目ざましく経済的に発展しつつある中で、「本当の幸せとは何だろう」ということを学びます。国内の不均衡や経済的発展、そして、発展から取り残されている地方や農村の状況についてなど、いろいろ見ながら考える材料にしています。コロナ禍により、2020年から現地での体験学習はしていませんが、カンボジア学習として、生徒たちが個々にテーマを決めてリサーチをして発表をしたり、現地とオンラインで交流を行ったりしています。

オンラインでの海外交流も盛んに行われているのですか。

 コロナ禍により、海外とのオンライン交流を活発に行うようになりましたね。本校はユネスコスクールでもあるので、カンボジア学習のオンライン交流においては、ユネスコスクールの他校と一緒に参加をしました。ユネスコスクールでの取り組み以外にも、聖心姉妹校ネットワークでも様々な取り組みをしています。例えば、Virtual Collaboration Programでは、オセアニア・アジア圏の姉妹校6校が集まってSDG’sについて考えます。このプログラムはサードステージ報告会も行い、参加した生徒たちは、英語で報告を行っていました。またSecret Heart Liveは、アメリカのサンフランシスコの姉妹校が呼び掛け、色々な国の姉妹校20校以上が集まって多様なトピックで話し合うというものでした。これらのプログラムは、すべてオンラインでの実施で、プログラム希望者は授業を抜けて参加しました。

国際交流の様子(1)

 オンライン交流により、非常に遠い国や地域とも関わることができるようになったと思います。2022年2月にウクライナで戦争が起こった後には、ポーランドにある姉妹校とオンラインで関わる機会を得ました。ポーランドはウクライナと接している国であるため、ポーランドの姉妹校からは「いろいろな事で苦しい思いをしている生徒たちに、楽しい時間を提供して貰いたい」とお願いされ、本校の生徒たちは折り紙を紹介するなど、ポーランドの生徒たちのためにとても頑張っていました。この交流に参加した生徒は、ポーランドの生徒たちの話を聞いて非常に勉強になったと、全校生徒に対して報告していました。

 コロナ禍から新たに始めたこととしては、アメリカのサンディエゴ大学と提携したオンラインでの夏休み語学研修への参加があります。参加した人数自体は少なかったのですが、とても充実した学びができました。また、University College of Londonによる2週間以上のワークショップには、日本国内のいくつかの高校生たちと一緒に、本校の生徒も参加しました。非常に専門的なものだったとのことで、内容レベルは高かったと聞いています。そのほか、Global Business Challenge Programでは、アフリカやタイで起業をしている方々とオンラインで繋がり、ビジネスをサポートするプログラムを考えました。本校は希望者が参加できる、このようなプログラムが数多くあり、自分たちで選んでやりたいものに参加できるという形態になっています。

聖心女子では、国際的な活動をしているクラブやサークルもありますね。2021年模擬国連全国大会では最優秀賞を獲得、同年の世界大会ではBest Improvement Awardを受賞されています。

 模擬国連は、そもそもサークル活動として行ってきたものになります。現在は、サークル活動の枠を少し超えて特別な位置づけになっていますが、模擬国連をやりたい生徒たちが自主的に立ち上げて始めたもので、20年くらい続いています。現在は40名ほどが参加していますが、朝を主な活動時間として、生徒たちは週2日朝7時半から登校して活動しています。上級生がテーマを割り当て、それに対して自分でリサーチをしてプレゼンを行うという形で活動しています。模擬国連は、毎年9月に国内大会の書類審査、12月に全日本大会が開催されるため、本校では7月頃に学校代表を決めるための校内選抜を行い、英語と日本語のどちらの言語でも論文を書ける力や社会的な時事問題に対する関心をはかり、学校代表4名を選抜します。その4名の生徒たちは、夏休みの期間で9月の書類審査に向けて準備をします。書類審査通過後は、全日本大会出場経験のあるOGが来校して、提出課題のチェックや指導をしてくれています。

国際交流の様子(2)

 2021年の模擬国連で受賞した生徒たちは帰国生ではなく、彼女たちは当初、英語が堪能な生徒が多い中でどうしようと言っていました。しかし、地道に細かいリサーチを積み重ねることができる生徒たちでしたので、とにかくたくさん調べて大会に臨み、受賞に至りました。また、この模擬国連での学びが、本人たちの進路にも影響を与えたようで、将来の進路を、今回の経験に沿って決めたとも言っています。

 模擬国連の大会では、色々な学校の生徒と議論するため、どの学校の生徒も積極的に発言している中で、本校の生徒は、生徒と生徒の架け橋となるような役割を担うことが多いです。他校の生徒があまりしない役割をしている点も評価され、受賞にも繋がっているようです。

 模擬国連のほかにも、本校にはちょうどコロナ禍中に出来上がった設立3年目の国際問題研究サークルというものがあります。アメリカサンディエゴ大学が主催するJacob’s Teen Innovation Challengeというコンテストに2021年・2022年と出場し、2021年は世界2位、2022年は世界5位に入賞しました。2年連続で入賞をして、生徒たちはまた来年も絶対参加したいと言っていますので、このサークル活動も本校の伝統になっていくと思います。

 英語で学ぶ生物という活動もあります。英語科のネイティブ・スピーカーであるアイルランド人の先生の一人が、サイエンスをバックグラウンドとして持っていて、理科部の顧問を務めています。理科部の生徒を中心に希望者に対して、英語で実験を行ったり学んだりしています。理科部以外からも希望する生徒もあり、英語で学べる楽しさがあるようです。

海外研修や留学について、今はどのような状況でしょうか。

 海外研修や留学は、コロナ禍により停止していましたが、徐々に再開しています。従来はカナダ姉妹校への留学は1年に1名ずつでしたが、2022年度からは高1生と高2生の計2名、2023年度からは3名になります。さらには、ニュージーランドとオーストラリアの姉妹校への留学も増えましたので、留学できる人数が増えました。それと同時に、自分で行きたい学校を見つけて留学することも、正規の留学として認めることにしました。コロナ禍により留学が停止していた影響もあるでしょうが、海外で学びたいと思っている生徒は非常に多くいます。

 一人でも多くの生徒たちの希望をかなえられるように、海外研修を再開して、留学の数も増やしていきたいと思っています。また、オンライン交流においても、もっと多くの色々な国々とも繋がって、国際交流の機会を、今まで以上に創出していきたいと考えています。

貴重なお話を、ありがとうございました。

編集後記

 今回の取材の中で、Jacob’s Teen Innovation Challengeでの入賞作品を見せて頂きました。マスクによる環境破壊の調査結果を伝えるとともに、地球環境に優しい材料を使用した新しいマスクの提案を英語で発表しており、その探究の深さと発表の素晴らしさに感動しました。大山校長先生のお話をお伺いしながら、聖心女子の生徒さんたちは深く調べ学ぶことを身につけているのだと思っておりましたが、実際に生徒さんの作品を拝見したことにより、そのことをより確信しました。生徒たちの自発的な取り組みが生まれて、それが歴史となり、そして生徒たちがさまざまな希望をかなえられるように、学校が環境を整え、先生方が支えられている同校。今後も注目すべき新しい取り組みが生まれてくるでしょう。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 佐々木梨絵]
2022年10月取材

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