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先進校レポート

渋谷教育学園渋谷中学高等学校 北原先生

 渋谷教育学園渋谷中学高等学校は、1995年に創立された東京都渋谷区にある私立中高一貫校です。地球社会で活躍できる人間を育成するため、「自調自考」の力を伸ばし、国際人の資質を養い、また高い倫理感を育てることを教育方針としています。また「国際理解教育」は名高く、スーパーグローバルハイスクール(SGH)のみならず、ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)コンソーシアム構築支援事業実施委託校にも指定されています。2018年には姉妹校である渋谷教育学園幕張高校とともに世界高校生水会議(Water is Life 2018)を開催、2021年にはオンライン国際会議「学びのオリンピックSOLA(Shibuya Olympiad in Liberal Arts)2021」を開催しました。

 今回は、WWL・UNESCO委員会委員長でいらっしゃる北原隆志先生に、国際理解教育について、お話をお伺いしました。

帰国生が多く、英語が堪能な生徒さんが多い学校の印象がありますが、英語教育はどのようなことを意識されているのでしょうか。

 国際人とは単に英語ができる人ではないとよく言われますが、本校では、SGDs達成を担う次世代地球市民であると教えています。英語は諸問題解決のためのツールとして捉え、話す内容や何のために発信するかに重点を置いています。いわゆる4技能も、各生徒が調べ発信するという環境を整えさえすれば自然に育っていくので、それ自体をゴールにしていません。

 英語圏からの帰国生もいますが、英語圏ではない国からの帰国生も積極的に受け入れています。重要なのは、異文化を経験したことで別の視点から日本を見ることができるという点です。彼らが同じクラスにいることで、色々な発想や行動パターンが生まれ、多様性を感じることができ、学校は地球社会のミニ版のような場所になります。

 本校は世間ではよく進学校と言われますが、在籍している生徒たちはグローバルリーダーを育成している学校という意識の方が強いと思います。そして、一般英語コースにおいても大学受験をゴールとしておらず、もし海外大学に進学したとしても授業がしっかりと受けられるレベルの力を全員に身につけさせて卒業させることを、英語科の目標としています。そのため、一般生の英語の授業は、日本の一般的なものと比べると帰国生のカリキュラムではないのかと思われるプランニングになっています。
 帰国英語コースの授業は、北米での国語や社会の授業のように、プロジェクトベースで進めていきます。一般英語コースは、中1からアメリカのテキストを使用して、ハイレベルなリスニングやアクティビティを行い、中3になるとネイティブ教員によるEssay Writing指導が始まり、高校ではディスカッション・プレゼンテーション・ディベート等が中心となった授業になります。帰国コースでも、一般コースでも、英語を使って、調べて考え行動し、自分の主張を論理的に発信できるようになる。これが本校の英語教育です。

海外研修はいかがでしょうか。

 多様性を大切にし、地球社会の問題を自分事と考える人を育てる。これが本校の国際人教育であり、本来は、中学生はオーストラリア、高校生は英国やベトナム等色々な文化圏での研修を実施しています。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により全て中止しました。海外との交流経験が少ないまま卒業させてよいのかと先生たちから熱い声があがり、昨年度は、中学3年~高校2年生を対象に、グローバル研修という国内プログラムを実施しました。本研修では、日本の大学院に国費で留学されているような優秀な方々、高校生は12ヶ国13名、中学生は20ヶ国24名をお招きして、ディスカッションやディベートなどを通してSDGsの諸問題について解決策を考え、発表しました。中学生は6日間の研修で、量的にも質的にも2週間のオーストラリア研修を大いに上回る英語を話したと思います。様々な国の実情を直接聞き、生徒たちは日本との違いに驚いていました。もちろん海外研修でしか得られないものは多数あり復活させたいですが、多様性と地球社会の問題を自分事にするという点では、本校の国内研修は強いですね。

国際理解教育として第2言語学習も行われていますね。

 中学3年~高校2年生の希望者を対象に、第2外国語(中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、韓国語)講座を放課後週2回行っています。言語の中にはそれぞれの文化が含まれており、言語を理解することができれば、正しく情報を捉えることができますし、何より多様性の理解に繋がります。一定の国や地域に対する偏見を持たず、多様性を重んじることは、語学に限らず、全ての授業や研修、クラブ活動においても一貫しています。
 また、本校では、開校以来、世界各国からの留学生を多数受け入れています。シンガポールRaffles Institutionやオーストラリア研修時のホストスクールから毎年数名の生徒が本校にやってきます。その他に、高校1年生の学年には、ドイツ、イタリア、インド等様々な国の生徒たち2~3名を1年間受け入れています。本校から長期留学する生徒は毎年10名程度いますが、英語力は本校で十分身につくので、文化体験や自立などを留学の目的にする生徒が多いです。英語圏以外の国に留学する生徒もいます。彼らは海外の現地校を経験してくるため、帰国後は帰国生とはまた異なる新しい風を校内にもたらしてくれます。

SGH、WWLコンソーシアム構築支援事業実施委託校として、様々な取り組みがありますね。

 本校は、以前よりユネスコスクールとして、常に一貫して、地球社会に貢献できる人を育ててきました。SGHに認定されてからは、地球社会が抱える問題を自分が得意な分野・場所で解決できる人が育つような新時代のカリキュラムを5年かけて開発しました。SGHは文部科学省から最高評価を受けて終了し、現在はWWLコンソーシアム構築事業実施委託校として様々なネットワーク構築に尽力しています。

 本校では、卒業生とのコネクションを大切にする等、学校と社会を繋げることを重視しています。SGH時代に、大学や企業、国内外の学校とコラボレートして行う教育活動を色々と始めました。SGHの最終年にあたる2018年には世界高校生水会議(Water is Life)を、姉妹校である渋谷教育学園幕張高校とともに開催しました。これまで本校で育んできた下地があったので、生徒の力で18カ国180名という大規模な国際会議を実施することができました。これが高く評価されて、WWLコンソーシアム構築支援事業実施委託校に指定されました。
 世界高校生水会議は成功した一方で、高校生のみが対象であった点、通訳を介さない英語力や長期間に渡る専門的な研究が必要となっていたため、日本国内の学校がほとんど参加しなかったという点、参加校を教員が決めたという点が課題として残りました。高校生だけでなく中学生も参加でき、国内の生徒たちが参加しやすく、何よりも企画から運営を完全に生徒自身で行う国際プログラムにしたいという想いから、「学びのオリンピックSOLA(Shibuya Olympiad in Liberal Arts) 」が生まれました。SOLAは当初、WWLコンソーシアム構築事業3年目に対面で実施する計画でしたが、コロナ禍によりオンライン開催に変更し、1年間、生徒たちにzoomを使用したイベントの運営を多く経験させました。そして2021年夏、17の国・地域から900名の中高生が集い、20種目の大会を同時に行う他に類を見ない国際イベントを開催できました。SOLAは、本校の学びを世界に見せる機会になったとともに、国内にある「中高生には無理だ」というマインドセットを変えることができたと自負しています。同年11月には「ユネスコスクール全国大会」においてESD大賞(文部科学大臣賞)を受賞し、それも生徒たちにとって大きな自信となりました。そして、生徒たちからの希望の声により、SOLA2022の開催も決まりました。今後も、本校の生徒たちが自らで成し遂げていく姿を励まし見守っていきたいと思います。

本日はありがとうございました。

編集後記

 取材当日は、北原先生が顧問を務める英語ディベート部の活動場所でお話を伺いました。北原先生が、「本校で英語は十分身につく」というお言葉を度々おっしゃっていましたが、英語ディベート部の生徒さん達の部活動の様子を拝見して、そのことを強く実感をしました。また北原先生の取材後には、SOLA2022実行委員長である島田絢菜さん(高校2年生)と副委員長の伊藤杏珠さん(高校2年生)から、SOLA2022に向けた意気込みや魅力について、お話を聞きました。お二人ともSOLA2021に関わり、2022年度も開催したいということで実行委員に立候補したそうです。SOLA2022は企画から当日運営まで、生徒達のみで行っていること、何よりも企画の種類が多数あり、魅力的であるということを話してくれました。お二人の生き生きとした姿を拝見して、渋谷教育学園渋谷中学高等学校が、今後どのような国際人を輩出されていくのか、非常に楽しみに思います。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 私学マネジメント協会 佐々木 梨絵]
2022年6月取材

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