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先進校レポート

清風学園中学校高等学校 平岡英信理事長・平岡弘章先生

清風学園では、2018年4月に定員5名の国際中高6か年一貫コースがスタートしました。特徴的な教育活動は、19か月の海外留学を課していることにあります。しかし、お話を伺うと、最大の特徴は、確かなコースのコンセプトに基づいた留学前の授業、準備であることに気が付きます。

2018年に国際6か年一貫コースがスタートしています。このコースには「日本の文化を理解し身につけ、世界に発信できる若者を育てたい」※というコンセプトがあると知りました。他校にはない特徴があると感じていますが、どういった考えでこのコースが作られたのでしょうか。

(副校長)国際コースのコンセプトは理事長が考えた構想が土台にあります。私が受けてきた教育や自身の留学の経験なども振り返りながら、多くの海外の中高を視察しました。そうした準備を経て、「これからの日本の教育はどのような教育が必要なのか」「グローバル社会で必要とされるリーダーとはどのような人材なのか」という問いに対する答えを見つけることができました。 この答えが最終的に、清風の建学の精神、理念に沿ったコースとなったということです。

(理事長)他の私学の中には「国際コース」ということで、英語だけに注力する学校があるかもしれません。それでは、これからの社会では通用しないのではないか、と。つまり、「実際海外に行ったら差別や文化の違いを実感することがたくさんある。だからこそ、英語だけでなくそれに耐えうるだけの精神力や気概を育てるべきではないか」と。そのために、何が必要かと考えた結果、「日本の文化を理解させる」ことは絶対に必要だろうと辿り着きました。

(副校長)もちろん、海外に留学させるので、ある程度の語学力は必要です。しかし、日本で学ぶ語学学習よりも、現地での語学学習に勝るものはないでしょう。それであれば、留学前には、日本の中学校でしか学ぶことができない茶道のような日本文化や日本の歴史等を徹底的に学ぶことが大切なのではないでしょうか。英語力ばかりを鍛えることしか準備をしないということは、例えて言うならば「散髪屋に行くのに、散髪してから行くようなもの」です。
 だから、清風学園の国際コースは、日本の文化を理解させることに重きを置いているのです。そして、自分の意見がしっかりと言える、ということも大切なことであると考えています。

散髪屋のお話は面白いですね。納得しました。ところで、いま、必要とされる「グローバルリーダー(国際人)」とはどのような人材とお考えですか。

(理事長) それは、今の時代に必要な人材ということですね。今の時代がどのような時代か、という解釈から始めましょう。今の時代は、「How、方法」を最先端にしつつ「ルーツ」を大切にしなければならないと思います。教育は時代に応じて方法を変えていかなければならない。これは当たり前です。しかし、ルーツは変えてはいけないのです。教育のルーツを考えるということです。日本の教育のルーツは、いじめはいけない、相手を尊重する、平和を尊重するというようなことを、しっかりと教えてきたことにあります。
 実際、グローバルリーダーを育てる、ということは、簡単なことではありません。「差別はいけない」というような理念というか、ルールは、誰もが理解をしているし当り前のことと思っています。しかし、現実には多くの差別がありますね。日本人が欧米に行けば、差別を受けることもあるでしょう。子どもが海外へ留学するとなると、そういう経験をする。差別に耐えるためにも、心を鍛えるべきです。精神を鍛えるということですが、それは、人間(ひと)の本質的なところを鍛えるとするなら、それは宗教教育であり、日本のルーツを学ぶことに繋がるのです。
 そういう思いがあるので、世界が求める「日本のグローバルリーダー」には、ルーツとなる日本文化であり、精神的な鍛錬のための宗教教育が欠かせないと考えています。

(副校長)教育の意味の話になりましたが、これまでの日本の教育には我慢するとか相手を尊重するといった価値観や考え方がしっかりと根付いています。それを教えないまま、アクティブラーニングの授業、4技能重視の英語教育ばかりを実践しても違うのではないか。大切なことは、日本人らしさ、日本の文化を教えることにあります。だから、清風学園では、日本の文化について学ぶのです。ただ、机上で学ぶのではなく、第一人者を招いて生徒と対話したり、本物の品を触るなどの経験をしたりします。

 先日、このようなことがありました。中学1年生の生徒が茶道の時間に「茶道の作法にはすべて意味があって奥が深いんです」と話したのです。もし、海外行ったときに、つまり留学先の学校の仲間に対して、茶道の深さであるとか、意味であるとかについて話し始めたら、どうでしょうか。留学先の学校で「こいつは使えるな」という評価になるんですよ。

 このことは大切なことを示唆していると思います。清風学園の生徒が茶道の本質についてプレゼンをする。しかも、生徒は茶道の精神を象徴したような言動をしている。そうなると、「日本人は大したもんだ、日本の教育は素晴らしい」となりますよね。これは日本の文化、日本人に見習うべきものだとなりませんか。

 

なるほど、世界が求める日本のグローバルリーダーを育成するべきだということ、教育の不易流行、すなわち不易と言うべきはルーツや人としての大切な点を教えることにあり、教育方法は時代に合わせて行うという「流行」の大切さを理解しました。その上で、どうしても伺いたい点があります。それは、定員が5名ということです。学校の経営からすると、人気が出る国際コースの定員としては、あまりにも少なくないのではないでしょうか?

(副校長)もちろん、最終的にはたくさんの人数になったらいいと思いますよ。しかし、国際コースとして留学をさせるのであれば、50人とか60人とか100人と募集すると、学校として実際手が回せなくなるのではないかと思っています。やはり海外で学ぶことは甘くないです。
 他の学校では50人募集している学校もあります。カナダの大学に入学できますし、アメリカの大学にも行けます。そして、アメリカの高校にもカナダの高校にも行けます、となっています。しかし、実際、海外の留学や進学先で、どのような教育を受けているのか、学びの成果や成長を把握できるのでしょうか。
 本校の場合は、そういうことも考えて、5名の募集からスタートしたのです。5名であれば、十分に成長を見守ることができます。何よりも、本当に必要な留学先を探すことができると考えています。学校に一人の日本人しかいない環境を提供したい。それは、19か月の留学の成果と大きく関係すると思います。

(理事長)私学ですから、もちろん経営は大事です。しかし、経営だけを中心にして考えてしまうといけない。誤解を恐れずに申しますが、経営を中心にするのであれば、大学にします。大学であれば、もっと生徒数を増やしたり学校経営そのものを大きくしたりできるでしょう。しかし、それは清風学園が目指すところではありません。なぜなら、大学を作ったら、今よりも教育は欠けると。清風には教育方針がある。その教育方針を貫くためには、中学校・高等学校でなければいけないでしょう。
 大学にも教育方針、ポリシーがあります。しかし、名目上の教育方針になっていると感じています。清風は教育をしている学校であり、儲けるというか経営のために学校をしているわけではありません。そこは間違えないようにしなければなりません。
 もうひとつ、大事なことがあります。それは、親や子供に媚びへつらうまでして惨めな思いまでして教育はする必要はない。もし、そういう惨めな思いをするぐらいなら、学校を閉鎖しようと考えています。
 私たちの考えの基本は、清風は教育をしているのだと。経営をしているのではないと。経営は後からついてきますけどね、それは儲けとは違う。教育を中心に考えると、国際コースのスタートは、5名の募集で始めようと。
 この人数であれば、「志をもつ、世界から必要とされる日本人のグローバルリーダー」を育成することができます。

実際、留学先の選定には、多くの時間をかけていますね。直接訪問したり意見交換をしたりと、実に多くの労力をかけていることにも驚いています。それだけ、学校としての意気込みを感じています。今日は有意義なお話を伺うことができました。本当にありがとうございました。

※平岡英信「ターニング・ポイント 3人の師との出会い 学校経営の指針に」 『正論』平成31年1月収録

清風中学校・高等学校

理事長 平岡英信(ひらおか ひでのぶ)
1929年京都市生まれ。 大阪大学理学部卒業後、1954年3月に清風中学・高等学校副校長に就任。 1985年清風中学・高等学校校長、1994年清風学園・清風海南学園理事長、 2011年清風中学・高等学校学園長に就任し、現在に至る。 著書には『教える心 育む心』(PHP研究所)『人を「育てる」ということ』『清風魂』がある。

副校長 平岡弘章(ひらおか ひろあき)
1965年大阪市生まれ。大学卒業後 20年間教職に携わる。 奉職中にジョージタウン大学(米国・ワシントン DC)に留学。 2009年法人本部本部長就任、2014年から現職。 著書には「グローバル・エリート教育」(故 渡部昇一上智大学名誉教授、江藤 裕之 東北大学大学院教授との共著)がある。

[聞き手:コアネット教育総合研究所 副所長 川畑浩之]
2019年6月取材

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