さて、4回にわたって連載してきました「学校改革への道『こうしたら学校は変われる!』」も、今回で最終回です。今回は、これまでの流れを復習しながら、組織風土改革のための具体的方法の一例をお話します。
学校は生き物です。環境が悪くなれば病気にもなりますし、最悪の場合は死に至ることだってあります。逆に、適切な治療を施せばきちんと直ることも多いのです。
ただし、治療をするには、何らかの痛みが伴います。それを覚悟しなければ変わることはできません。特に、病気が進行してしまっている場合は、それなりの覚悟が必要です。
私たちは、学校組織の治療には大きく分けて「外科手術」と「内科治療」の二つがあると考えています。
患部がはっきりしていて、摘出すれば直ることがわかっている場合は、「外科手術」を適用します。例えば、明らかに悪影響を及ぼす制度や仕組みなどがあれば、その部分を直すことで全体が改善することがあります。
しかし、多くの場合は、特定の患部を取り除けば完治するという単純な病気ではないと思います。生活習慣病のようにじわじわと悪くなって、いつの日か自覚症状が出てくるという場合が多いのではないでしょうか。その場合は、外科手術よりも、内科治療による体質改善をした方がよいでしょう。これがまさに組織風土の問題なのです。組織の体質改善をしなければ、組織風土病は治りません。
実際の学校組織においては、生活習慣病に罹っていて、その合併症で、さらに目に見える病気が表れている場合が多いと思います。その場合は、外科手術でとりあえず応急手当をしながら、内科治療で根本的に体質を改善していくような複合的な治療を行うことになるでしょう。
「病は気から」と言います。組織風土病も「気から」だと思います。「うちの学校はこうだから」とか「どうせ何をやってもムダだ」とあきらめたり、後ろ向きなことを言うのはやめた方がいいと思います。「何がダメか」ではなく「何を直そう」という前向きな言葉に置き換えて話し合いをしてほしいと思います。
組織の体質改善をしていくためには、まず健康な身体の状態を思い浮かべてください。健康になるためには、自分で健康な状態をイメージして、それを目指そうと思うところから始まります。学校組織でも同じです。学校組織としてのあるべき姿を思い浮かべてください。それが、以前お話した「ビジョン」にあたります。これが無いと改革は始まりません。
では、どのような体質改善を行えばよいのでしょうか。まず、第一は「組織の血のめぐりを良くする」ということです。ここで言う「血」とは、組織の中の「情報」のことです。
体質を良くするためには、全身に栄養を運ぶきれいな血が流れていなければなりません。つまり、組織全体に情報が行きわたるようにしなければならないということです。それも栄養素が豊富な(前向きな、意味のある)情報です。
そのためには、教職員間のコミュニケーションを活発にしなければなりません。ここでは、コミュニケーションを活発化する具体的な方法をいくつか見ておきましょう。
まず一つ目は、「職員会議の改革」です。職員会議は、教員が全員参加して話し合いが行われますから、一見、コミュニケーションの活発化に役立っているように思われます。しかし、実態は、多くの学校で実質的な話し合いはされていないようです。議題の多くは議論を必要としない報告事項で、決裁を要する議題についても、ごく一部の限られた教員が評論家のような意見を述べるだけで、前向きな議論は行われていないというのが現実のようです。
職員会議で本質的な議論を行うためには、次の三点が必要だと思います。まず「報告事項は資料の回覧で済ませる」ようにしてください。また、こういう御時世ですから、教員一人に一台のパソコンを配備してネットワーク上で情報を共有するということも可能だと思います。
次に、討議事項については「事前に資料を配布しておき、会議では説明を省略し、すぐに議論に入る」ということも必要です。資料に書いてあることを読み上げるのは時間の無駄です。資料を事前に読んでいない人は議論に参加できなくても仕方ありません。限りある時間をなるべく議論にあてるようにすることが必要です。
そして、もう一つは、「全員参加ではなく、関係者だけで会議を行う」ということです。職員会議は意見を収集する場であり、最終決裁権限は校長にあるというのであれば、わざわざ関心の無い人も含めて全員を集めることはないと思います。通常、中高一貫校であれば、教員の人数は、最低でも30~40人程度はいらっしゃると思います。この人数は、実質的な議論のできる人数ではありません。もっと少人数にすべきです。実際には10~15人程度が限界だと思います。
まず、議題を事前に示しておき、やる気と関心のある人だけ参加してもらうことにします。そもそも職員会議で「居眠り」や「内職」をしている人は参加する必要はありません。
当然、議題に関係がある教員は校長が指名して必ず参加してもらいます。もちろん、自ら参加したいという人はぜひ参加してもらいます。
参加するからには、必ず一回は発言することを義務づけてもよいでしょう。逆に、参加しない人は、後から文句をつけないこと、つまり、決定された事項に同意することを内諾しているものとします。
「職員会議には全教員が参加するのが常識だ」と言われるかもしれません。しかし、どんなに小さな企業でも社員全員が参加して重要事項を決定している所など聞いたことがありません。そちらの方が一般的な常識です。少し見方を変えて、ぜひ検討してみてください。
二つ目は、非公式の「校内勉強会」の開催です。校務分掌として発令したり、正式に校長が任命する必要はありません。形式的な結果を求めず、むしろ、話し合うことそのものを目的とします。気楽に、思ったことを言い合うことが大切です。
教員という仕事は、そもそも、あまり協力し合いながら進めるものではありません。本連載第1回でも少しお話をしましたが、どちらかと言えば、「職人」的な仕事のしかたで、少々困ったことがあっても、他の教員に相談したり、話し合ったりはしない特性があるようです。そうなると、日常の仕事上では、あまりコミュニケーションをとる必要性がなくなります。いきおい、情報は伝わりにくくなります。会議などでは、情報が「話す側」から「聞く側」への一方通行になりがちで、形式的・表層的な情報は伝わりますが、もう少しホンネの、と言いますか、本質的な情報が伝わりにくいのです。そこで、このような気楽に話し合える場が必要になるのです。
ここで言う「勉強会」は必ずしも勉強をする場ではなく、「いま疑問に思っていること」や「こういうことをしたい」というような、いわば「思い」のようなものをぶつけてホンネで話し合う場だと考えてください。
こういうことをやろうと誰かが言い出すと、やれ「時間の無駄だ」とか「そんなくだらない話をしても意味がない」という反対意見が必ず出ます。それでも結構です。まずは「やりたい人だけやる」ということで一向に構わないと思います。
三番目の方法は、「職員室の中に雑談スペースをつくる」ということです。どういうことかと言いますと、ちょっと思いついた時に、傍にいる人をつかまえて、気軽に簡単な議論ができるスペースをつくるということです。具体的には、教員十人に一つぐらいの割合で、ミーティング用テーブルと四~五個のイスを置くだけでよいのです。
別室に行って会議するほどでもないけれど、立ち話で済む話でもない、ということがよくあると思います。実は、そんな瞬間がもっともコミュニケーションを活発化する好機なのです。授業の空き時間でも、休み時間でも、ちょっとした時間に簡単な話し合いができると、コミュニケーション量は格段に増えます。どなたか二人で話している時に、ちょっと通り掛かった別の方が話を小耳に挟んで議論に加わるということが起これば、さらにコミュニケーションは広がります。
こういったスペースは、少し広い机が必要なちょっとした作業をするにも便利ですし、重宝すると思いますので、職員室のスペースにまだ余裕がある場合は、検討してみてください。でも、よく見掛けるのが、いつの間にかテーブルが荷物置き場になってしまっているパターンです。くれぐれもご注意を……。
どの学校でも全教員対象の校内研修をやられていると思います。多くは、年1回、何らかの専門家を連れて来て講演を聞くという形式だと思います。しかし、この研修の機会もせっかくですから、コミュニケーション活発化の機会として捉えてはいかがでしょうか。つまり、話を聞くだけでなく、話し合いを行うということです。
外部の方から話を聞いて、その後に、それをテーマに話し合いをしてはいかがでしょうか。
やり方としては、分掌や学年、教科などの通常の組織とは異なる7~8人ずつのグループをつくって話し合うとよいと思います。実際にこういった研修をやられている学校では、世代別で分けている所もあります。ベテランの教員がいると若手が発言できないという雰囲気があるのであれば、その方法もよいと思います。
いずれにしても、まずは活発に議論ができるメンバー構成にするのが第一です。普段からよく話をしているように見える同世代の教員同士でも、真面目なテーマを設定した話し合いはしたことがなく、新鮮なものだったりします。
また、この場合は研修ですから、きちんと話し合いの前には論点を明確にし、話し合いの後には議論をまとめて発表させることが必要です。私どもがこのような研修のお手伝いをさせていただいて感じることは、意外ときちんと話し合いができないということです。建設的に意見を積み上げていって最終的にまとめ上げるということは、それなりに慣れていないとできません。細かいことにこだわって時間を無駄に使ってしまったり、感情的になってしまい事実を捻じ曲げてしまったりということが起こります。
コミュニケーションは時間と場が与えられることがまず第一ですが、各自がきちんと話し合いができるスキルを身に付けることも大切です。私どもが研修をお手伝いするときは、一緒に議論に参加して、ロジカル・シンキング(論理的思考)の方法や議論をまとめるフレームワーク(考え方の枠組み)などを提示しながら進めます。また、議論が脇に逸れそうになった時の軌道修正や、話が盛り上がらない時の話題づくりなどを行います。初めはこのようなファシリテイターが必要かもしれませんが、いずれは、教員の中にこのような役回りができる方が出てきます。そうなってくると、組織全体のコミュニケーション活発化に拍車がかかります。
また、こういった研修の場合、事前の論点の設定が大切です。論点の設定次第で、議論が活発になるかどうかが決まります。また、そのためには、そもそもの講演者がどのような人で、どのような話をしてくれるのかが重要になってきます。学校の現状に合わせて適切な講演者を連れて来れるかどうかが研修のポイントの一つとも言えるでしょう。
組織の体質改善について、もう一点お話したいと思います。それは「足りない栄養素を補う(体のバランス改善)」ということです。
教員の方々は、長年学校の中だけにいて、情報や知識が偏っています。特に、自分の受け持ちの教科の研究をしなければならないので、それだけに没頭してしまうこともしばしばあると思います。つまり組織の栄養素である「知識」が極端に偏っていて、バランスを欠いているのではないかということです。
ですから、もっと積極的に学校外に出掛けることをお奨めしたいと思います。外に出て学校とは違う世界を色々と見ることによって新たな発見があったり、視野が開けたりすることもあります。一番良いのは、外部の研修会、研究会などへの参加です。それも、学校の先生が集まって専門の教科の研究をするものではなく、全く別世界のものの方がよいと思います。企業に勤める一般の社会人対象の研修会やセミナーはたくさん開かれています。そういったものに参加するのもよいでしょう。
しかし、そのためには、校長先生は「時間」と「カネ」と「情報」を与えてあげなければなりません。「時間」は、放課後であれば自分で何とかやりくりできるでしょう。しかし、仕事をたくさん抱えて忙しい先生はなかなか外に出る機会をつくることもできません。そういう場合は、校長からの指名で、半ば強制的に行かせるという方法も考えてもいいと思います。
また、研修などに参加すると、それなりに費用もかかります。それはきちんと対応してあげなければなりません。一般的に、学校は、企業と比べて人材育成にお金をかけていません。企業では「ヒトが資源」という認識が強く、研修や自己啓発には惜しみなく投資しています。私は、学校こそ「ヒト(教員)が唯一の資源」だと思います。適切な使い道であれば、もっと費用をかけるべきです。
さらに、教員を外に向かせるためには、どこでどのような研修会やイベントをやっているのか、といった「情報」が必要です。教員が自ら探してくることも大切ですが、学校として、教員に参加させたいものを探してきて提示することも必要だと思います。
組織の体質改善について話をしてきましたが、一方でやはり「病気の予防」ということも大切だと思います。そのためには、「病気を早期発見する」ことが必要です。はっきりとした自覚症状が出る前に、何となく予兆があるはずです。「身体のどこかが少し変だな」と感じたら、それは病気のサインです。病気を悪化させるのは、少し変だと感じても、「大丈夫、何とかなる」と言って、ごまかし続けた場合です。組織でも同じです。どこかのクラスや学年で問題が起こったとしても、そこだけ対処してお仕舞……。そんなことが行われていませんか?どこかで綻びがあった場合は、全体を疑った方がよいのです。良くない体質が問題の温床となっている場合が多いのです。
さらに、問題として発覚する前に予兆をつかむことも可能だと思います。通常、教員はよほどのことがなければ問題を校長や教頭に相談しようとはしません。それは責任感があるということなので、悪いこととも言い切れません。むしろ管理職側から変調を読み取ってあげるべきでしょう。ですから校長はもっと現場に近い所にいなければなりません。授業や校内を見回ったり、一人ひとりの教員ともっと接触して話をした方がよいのです。校長室に閉じこもっていないで、もっと職員室にも足を運んだほうがよいでしょう。できれば、職員室にも席を置いて、必要がなければ校長室には入らないようにした方がよいと思います。教員一人ひとりの動きをもっとよく見ていれば、問題の予兆を察知できるはずです。
4回にわたって連載してきたこのシリーズは、組織の改革のステップをお話してきました。まず、第一に、「現状をきちんと認識する(危機感を共有する)」ことから始めます。そして第二に、「学校としてのビジョン」を示します。第三にそのビジョンを達成するための「基本方針(戦略)を決定」し、それに従い「目標と計画を立て」ます。
このようなマネジメント・サイクルをつくりあげることが必要なのですが、一方で、改革を実現させようと思ったときに立ちはだかるのは、組織風土や体質です。組織風土を良くするためには、風通しを良くすることが大切で、具体的には教職員のコミュニケーションの活発化が必要だということです。お互いが理解しあい、価値観を共有しあって、協力して改革に取り組むというのが理想です。そのために、いま学校に最も必要とされているのは、校長のリーダーシップです。
校長先生! さあ、勇気を持って一歩前に進みましょう!あなたには必ず着いて来てくれる人がいます。それを信じて前に前に進みましょう。貴校の改革は日本の教育を変えていく力にもなるのです。ご成功をお祈りします!
(本連載「学校改革シリーズ」は今回が最終回です。長い間ご高覧いただきありがとうございました!)