第4回 開成中学校・高等学校

  • 現状に慢心しない!良い時こそ改革を!

    現状にとらわれないゼロからの長期ビジョンをつくり上げる

    開成中学校・高等学校 理事長 加藤丈夫 先生

    「私学マネジメントレビュー」第10号(2004年3 月発行)より転載
    東京大学の合格実績が1位になって以来、20年以上もトップを走り続けてきた、開成学園。学力面と同時に、リーダー教育にも力を注ぎ、優秀な人材を輩出し続けてきた。これは時代の変化にともない、開成自らも変化してきたからこそ、可能だったことである。教育改革や都立校の復活により、私学全体が大きな局面を迎えている現在、企業組織と学校組織の双方に精通した加藤理事長のもと、開成が再び進化しようとしている。

    聞き手:株式会社コアネット副社長 小嶋隆
    学校群による学区制の導入が私学の追い風になった

    小嶋 今、私学はまさに激動の時代にあり、首都圏の私立中学校のうち80~90校が定員割れをしていると言われています。経営面では今後、かなり厳しい状況になっていく学校も多いのではないでしょうか。
    このような状況にも関わらず、御校は経営面も安定し、受験生からの人気、大学合格実績やリーダー育成の教育面など名実ともにトップを走り続けていらっしゃいますが、なぜこのような事が可能なのでしょうか。

    加藤理事長 本校も、昔からトップ校と言われているわけではなく、都立が強かった時代に追いつき、追い越したという歴史があります。1960年代は都立の全盛期でした。東大合格実績においても、本校は「都立校に追いつくこと」を目標としておりましたが、当時はなかなか難しいものがありました。ところが、1967年に学校群による学区制が導入されたことにより、都立校に優秀な生徒が集まりにくくなり、それと相反するように、私立中学校の人気が高まったのです。これは開成にとっても追い風となりました。
    大学合格実績を伸ばすための近道は、まず優秀な生徒を集めることです。本校の教育施設は、他校と比べても決して良いとは言えません。優秀な生徒が集まって、良い教員のもとで切磋琢磨することにより、実力が伸び、また優秀な生徒が集まってくるのです。開成には、生徒どうしが切磋琢磨する雰囲気があふれています。

    小嶋 現在、都が学区制を撤廃して都立校復活のきざしが見え始めました。加えて今後、公立の中高一貫校も増えてくることでしょう。このような変化に対しては、どのようにお考えですか。

    開成は週五日制になる日本で最後の学校

    加藤理事長 現在行われている教育改革は、日本の教育全体にとって良いことだと私は思っています。改革により公立校と私立校が競い合うことは、日本の子ども達にとっても、公立校、私立校の双方にとっても、必ず良い成果を生むでしょう。また私は、中高生時代の教育には中高一貫教育が一番良いと思っています。現在、都立校でもかつての名門校が中高一貫校設立の準備を始めていますが、これも良い成果を生むのではないかと思います。ただ、公立の取り組みの成果が出るのは、10年、20年先でしょう。その時、本校がもう一歩先を行くという気持ちでいることが大切だと考えています。

    小嶋 公立校もいずれ良い教育を行うようになってくるとすると、私学の価値はどうなるのでしょうか。生徒や保護者が私学に求めるものは何か、また、特に開成に求めるものは何だとお考えですか。

    加藤理事長 保護者が公立よりも高い学費を払って開成に求めている、根本的な要求は、「子どもを立派な人に育てて欲しい」ということだと私は感じています。今後、社会全体の国際化が進む中で、求められる人間像も変わってくるとは思いますが、やはり、社会で活躍できるリーダーを育てることが求められていることは変わらないでしょう。
    また一方で「東大に入りやすくしてくれる」という期待はいまだに大きいです。そのための学力を身につけさせてほしいという要求は依然あるでしょう。その部分も守っていきたいと思います。

    小嶋 「生きる力」や社会に役立つ力と、いわゆる「学力」や受験勉強のようなものとを切り離して考えようとする風潮は依然として強いですよね。でも、私はこの2つの力は密接に関係していると思います。例えばこれからの時代で社会に役立つ力のひとつに、情報を集め、それらをつなぎ合わせてプレゼンテーションすることができる「編集力」があると思いますが、編集するための情報や知識を持っていなければ力は発揮できません。そのためには人生のどこかで一生懸命勉強をしなければならないと思います。

    加藤理事長 本校は週6日制をとっています。いま週5日制をとることは考えていませんが、それだけ学習時間を確保したいのです。特に中学時代には、無理をしてでも、徹底的に基礎的な学力をつける勉強をさせなければだめだと考えています。私の年齢になっても、さまざまな事柄のベースになるものは中学時代に得た知識だと感じますから。

    小嶋 全ての基礎になるような勉強は、野球で言えば、素振りであり、キャッチボールなのではないかと私は思います。(プロ野球選手の)イチローにしろ、松井にしろ、輝かしい業績の基礎には素振りや練習の積み重ねがありますよね。

    真のリーダーの素質は中高生時代につくられる

    小嶋 御校ではまた、社会の様々な分野でリーダーとなり得る人材の育成に力を入れていらっしゃいますね。

    加藤理事長 現在、世間ではさかんにリーダー教育が大切だと言われていますが、社会に出てから受けるリーダー教育とは、リーダーになるノウハウを学ぶだけのものが多いと感じています。やはり大人になってからリーダー教育を受けるのでは遅く、真のリーダーの素質は、中高生時代につくられるのではないでしょうか。中学、高校時代は、子ども達が肉体的にも精神的にもいちばん成長する時期ですから、学習指導以外に、精神面でもどのような教育を行うかが重要な課題です。
    例えば、目標や将来への憧れを抱くことは、中学、高校時代の生徒にとって、とても大切なことだと思います。本校の試みで、今、生徒達に一番刺激になっているのは、「ようこそ先輩」という企画です。毎回、社会で活躍している開成の卒業生、年齢でいいますと30代くらいの人を迎え、卒業後の歩みや現在の仕事について話してもらっています。高校1年生は全員、他学年も希望すれば聞けるようにしています。この企画は生徒達にとても受けが良いようです。自分より10~20歳くらい年上というのは、生徒達が自己を投影しやすいようです。何かを成し遂げつつある年代の人の話は面白いのでしょう。
    また、それとは別に、年2回の講演会も行っています。これはもう少し年配者、「何かを成し遂げた人」が講演をしていますが、これにも生徒は良い刺激を受けています。

    小嶋 子どもというのは、何かのきっかけで将来の目標ができたりするものです。大人がしてあげられることは、できるだけ良い刺激を与えることなのかもしれませんね。

    加藤理事長 やはり生徒達にとって、一番刺激的なのが、自分の学校の卒業生だと思います。本校の生徒が学校を卒業し、社会に出て活躍をする。そして今の生徒達の目標になる。その積み重ねが、学校の雰囲気をつくっていく。そういった意味で、歴史のある学校は強みを持っていると思います。
    また、毎年行われる運動会、文化祭などの学校の行事も、生徒達に良い刺激を与えていると思います。中学1年生の生徒が高校3年生の生徒と一緒になって活動する。中学1年生にしてみれば、6つも年上の「おじさん」に指導されながら、いろいろと覚えていくわけです。これは中高一貫でなければできないことだと思います。

    小嶋 中学1年生にとって、高校3年生は、実像としてわかりやすい先輩だと思います。彼らが最高学年になった時、また新入生を指導し、それが良循環を生み出しているのでしょうね。

    校舎建て替えを視野に入れた長期ビジョン計画の策定

    小嶋 さきほど「10年、20年先に開成が一歩先を行く」とおっしゃいましたが、その施策についてお話しいただけますか。

    加藤理事長 本校ではこれまでも財務、教育の面で、さまざまな改革を行ってきましたが、公立の教育改革の動きや、現在の日本の経済的な状況を考慮し、今後さらなる改革を進めていかなければならないと考えています。
    改革を具体的に進めるため、現在、本校では長期ビジョンを作り始めています。先にお話したような時代の変化に加え、本校には校舎を建替える計画があります。校舎=入れ物は、中に入れるものが決まっていなければつくることはできませんので、校舎を建て替えるまでに、中に盛り込むものは何かを考えたいと思っています。校舎の建て替えを何年後とはっきり決めたわけではありませんが、時間的なターゲットを2010年と設定し、それまでにひとつの改革を完成させたいと考えています。
    具体的には、2003年5月に私が「これからの開成」という冊子をつくり、理事と幹部に、さらにそれを抜粋したものを、全教員に配布しました。「これをたたき台にして長期ビジョンの検討をしてほしい」と教員に投げかけたわけです。今後本校がどのような教育をしていくか、それは理事会ではなく、教員が考えるべきことです。
    それを受ける形で、教員による「長期ビジョン委員会」が設置されました。これから、本校を取り巻く状況を洗いざらい検討し、われわれとしてのスタンスを決めようとしているところです。

    小嶋 理事長先生が外堀を固め、後は先生方に任されているのですね。なかなか思い切ってできないことだと思います。その内容について、もう少し詳しくお話しいただけますか。

    加藤理事長 この投げかけではまず、現在日本で行われ始めている教育改革により、学校への価値観が変化するであろうことと、不況が長引くため学費が上げられないなど、経済的な制約を受けるであろうことが前提となっています。現状を知った上で、長期計画を立てて欲しいということです。
    ただ、検討内容としては、現状を踏まえるというより、ゼロから検討をしてほしいのです。例えば校舎の建設については、学校の環境として立地はこのままでいいのか、学校のスケールはどのくらいであるべきなのか、生徒数は今の規模がいいのか、もっと増やしたほうがいいのか、高校からの募集の数はどうか、共学の可能性は考えられるかなどといった、根本的なレベルから議論を始めて欲しいと言っています。運動施設、図書館など、必要になる施設の検討ももちろんですが、教育内容、教員組織、学校経営についても、その入れ物である校舎と関連づけて考えてほしいですね。

    「骨太の国際人」を育てるために学校として何ができるか

    加藤理事長 また、私は国際化にもっと力を入れていきたいと考えているので、それについても検討してもらいたいと思っています。よく私が「骨太の国際人を育てる」という言葉を使うと、「もう東大の合格実績はいいのですね」と言う方がいらっしゃいますが、決してそういう意味ではありません。本校は、最終学歴ではなく、大学に進学するための「中間校」という機能を果たしているため、最難関の東大合格実績を守ることは義務といってもよいでしょう。その上で「開成人」を育てるために、学校として何ができるか、教員にはその教育イメージを考えて欲しいと思っています。
    ただ、これまでの世の中を形成してきた「東大の権威」は確実に変わり始めています。価値観も随分と多様化していますので、それに伴い、進学先も多様化していくのは必然だと思います。その中で、海外も当然視野に入ってくるのでしょう。今年も卒業生の何名かは海外の大学に進学しました。おそらく今後、増えてくるのではないかと思います。
    教育内容の検討は直接、「質の高い生徒を集めるにはどうすればよいか」という問題にもつながります。今後はさらに、募集範囲を広げた取組みをしなければならないかもしれません。すでに地方からも下宿などをしながら本校に通っている生徒もいますので、寮の設置も検討事項のひとつです。設置するのであれば、学寮としてのシステムをしっかり整えなければなりませんので、もう少し時間がかかりそうですが。
    教員組織のあり方についても、組織の構成について、教員の処遇について、専任教員と講師の割合をどうすればよいか、また、教員の研修制度をどうやって整えていくか、他校との交換派遣制度などはできないか、などについて、学校経営全体を視野に入れながら、検討をして欲しいと思っています。
    経営面でも、学校として自立した経営を目指すにはどうすればよいかについて、教員にも考えて欲しいと思っています。
    今お話ししたような内容を、これからの検討課題として投げかけました。

    改革は良い時にやらなければ絶対にできない

    小嶋 突然の投げかけに、とまどった先生方もいらっしゃったのではないですか。

    加藤理事長 どうしてこんなことを言うのか、我々が現在やっていることがおかしいのか、と訊ねる教員もおりました。
    そういった教員に対しては「今、開成がやっていることがおかしいのではない。現状に慢心せず、さらにプラスになるように考えてもらいたいのだ」と伝えました。私は常々、改革というのは、状況が良い時にやらなければ絶対にできないと考えていますから。

    小嶋 今回の長期ビジョンの投げかけにより、先生方に何か変化があったとお感じですか。

    加藤理事長 私が今回投げかけたことはプラスの方向に働き、教員達は良い意識転換ができると期待しています。まず、教員の間で生徒募集を大切にしようという意識が芽生え、併せて進学実績も重視するようになること、そして、外部の情報を積極的に取り入れようという動きなどです。
    例えば本校で毎年10月に行う学校説明会では、全校の教員が総出で対応し、準備も熱心に行っています。また、昨年8月に行われた東京都私立学校展でも、教員達は実に熱心に対応をしていました。もちろんこれは今回の投げかけだけではなく、ここ数年の継続的な意識改革の成果だと思います。

    小嶋 長期ビジョンに向けた投げかけを受け、先生方も、進化されているのでしょう。教科指導や生徒指導といった教師としての質の高さに加え、今後は「マネジメント力」とでも言うべき力をつけられるのでしょうね。
    お話を伺っていると、とてもスムーズに改革を進めていらっしゃるように感じますが、難しいと思われる部分はありますか。

    加藤理事長 ひとつは、人件費管理です。これまでは給与を年功序列であげてきましたが、いつかは変えなければならないと思っています。現在の財政状況の中でそれをどうすべきか、考えていかなければならない問題だと思います。
    また、専任教員と講師の比率をどうするか、といった問題もあります。講師の比率を増やせば人件費は抑制されますが、そうすべきかどうかは、難しい問題です。

    改革を進めるためには教員のモチベーションアップも必要

    小嶋 都立全盛期、当時の理事長が「大学進学実績の目標値を掲げ、目標が達成された場合は教員の給与を大幅に引き上げる」という方法で教員のモチベーションを上げていたというお話をうかがったことがあります。現在はいかがでしょうか。

    加藤理事長 そうですね。方向性は継続していると思います。私より3代前の理事長も「トップ校にはトップ校にふさわしい処遇を」と発言しました。それが教員のモチベーションアップに結びついているのは確かです。学費の値上げもなかなか出来ない中で、教員の処遇をどう維持していくかということは課題ですが、是非、これからもこの方針は継承していきたいですね。

    小嶋 やはり改革を進めるためには、教員のモチベーションアップも必要ですね。
    学校の場合、改革には10年、20年といった比較的長い時間を要します。その中でどれだけ効率良く改革を行っていくかもひとつの課題だと思います。
    改革のスピードを上げるために、具体的になさっていることがあれば、教えていただきたいのですが。

    教員の意識改革のために外での見聞を広げる

    加藤理事長 教員の意識改革に力を入れたいと考えています。そのためには、教員に、外の空気に触れてもらうことが一番だと思います。実現は難しいでしょうが、一度企業の一員として生活をしてもらうのが理想ですね。そこまでは望めなくても、外での見聞を広げて欲しいですし、学校外の研修にも積極的に参加して欲しいですね。教員の研修制度にも今後、力を入れていきたいと思います。
    また、本校には「管理階層」が存在しません。100名以上の教員の中で、管理職は校長だけで、教頭、教科主任は任期制です。
    これまでは、管理階層が無くても自然に先輩、後輩の良い関係が出来ていたのですが、最近はそれが薄れ、教員同士の対話も少なくなっていると感じています。改革のスピードを上げるためには組織的な動きが必要となってきますので、この問題も、長期ビジョン計画の一部として投げかけているところです。

    小嶋 理事長先生が会長を務めていらっしゃる富士電機ホールディングス株式会社では「経営塾」「経営道場」といった、中堅社員を対象とした研修が行われているとうかがいました。開成ではそういった試みはされないのですか。

    加藤理事長 「経営塾」「経営道場」では、会社が受講者を指名して、研修を行うという方針をとっており、良い成果を上げていると思いますが、この方式を学校にそのまま導入することは難しいですね。
    私はこれまで30年以上も人事や研修の仕事に関わってきましたが、一般企業と学校の人事マネジメントは、全く違うことを実感しています。また、学校組織のもうひとつの特徴は「総意をまとめないと前に進めない」ところだと思います。このために、ひとつのものごとを決定するのに、非常に時間がかかります。どちらが良いという訳でははなく、企業と学校の違いだと思いますね。

    小嶋 学校に企業の論理は必ずしも通用しない。それは私も日々実感していることです。理事長先生の場合、学校組織と企業組織の双方に精通していらっしゃるからこそ、それぞれに適した方法をとることが可能なのですね。

    学校は一種のNPO できるだけガラス張りに

    小嶋 次に、財政面についておうかがいしたいと思います。御校では、財務情報の公開を徹底して行われていますね。

    加藤理事長 はい。本校では、教職員のほか保護者、生徒に対しても予算書・決算書類の全ページを公開しております。これは事務長のスタイルですが、オープンにしすぎると言っていいほど、オープンにしています。私も学校は一種のNPOだと考えているので、できるだけガラス張りにしなさいと言っています。

    小嶋 財務情報をオープンにすると、先生方にも、保護者にも、学校全体の実状が理解しやすくなるでしょうね。しかし、オープンにすることについて、校内でも反対意見などがあるのではないですか。

    加藤理事長 オープンにすることを理解してくれる、それが本校の教員の質だと思います。一方で、オープンにできるのは、経営が順調だからだ、という言い方もできます。経営をオープンにしてきたことで、教員が学校の経営全体を理解してくれていると思います。
    本校の場合、授業料と、東京都からの補助金だけでこれまでやってきました。本来ならば補助金無しで成り立つのが理想ですので、これからもっとうまく資金集めをしていかなければと思っていますが、しばらくはこの体制でいくつもりです。
    現在、都の補助金が学校財政の25%です。これ以上増えることは期待できませんし、年々経費はかさんでいきます。その上、学費の値上げもなかなかできません。となると、学校内部の運営をどう効率化するか。これにつきると思います。

    小嶋 御校では事務のアウトソーシング(外注化)を進めることによって、経費を大幅に削減されたそうですね。年間約一億円削減されたとうかがいましたが。

    アウトソーシングの導入で経費は大幅に削減できる

    加藤理事長 はい。本校の財政規模が約20億円ですから、その効果は大きいと思います。アウトソーシングが進んだ結果、現在、開成の事務職員の数は、生徒2100名に対し、7名となっています。おそらくこの規模は私学の中では少ない方ではないでしょうか。
    しかし事務職員が少ないことで、教員に負担がかかっていることも事実です。他校ならば事務がやっていることを、本校では教員が行っていたりします。私は、できれば先生方にはもっと教育活動に専念してもらいたいと思っています。

    小嶋 事務職員を減らすことで先生方の事務作業が多くなることはわかりますね。しかし、それにより、逆に教員と事務職員の交流が促進されているということもあるのではないでしょうか。

    加藤理事長 そうですね。加えて、事務の仕事をすることによって、教員が自然に「学校のマネジメント」がわかってくる。また、生徒とのふれあいの場も増えてくると思っています。ですから、少しは事務の仕事に関わったほうが良いとは思います。ただ、事務の内容もさまざまですから、教育に直接関係ない仕事は、アウトソーシングをするという方針を、これからも守っていこうと考えています。

    小嶋 アウトソーシングが経費削減に効果的だとわかっていてもなかなか実施に踏み切れなかったり、そもそもそこに着目していない学校も多いと思います。その点、御校では早期に着目し、すばやい対策をとられていると感じますね。

    加藤理事長 私は理事長になってまだ3年ですが、開成の歴代の理事長には企業の経営者が多くいます。ですから、経営面が強かったと言えるかもしれません。現在も本校では、理事会が経営・財政面についての責任を負い、校長が教学についての責任を負うという体制をとっています。この明確な役割分担は、理事会と校長の信頼関係がなければできないと思います。

    小嶋 事務と教員の歯車がうまくかみ合っていない学校は、全体の運営がうまくいかない学校が多いようです。その点、御校ではこの点でもうまく循環していますね。
    最後に、あまり改革の進んでいない学校、また、改革を試みてはいるもののそのスピードの遅い学校に対して、何かアドバイスをいただきたいのですが。

    加藤理事長 私はそんなことが言える立場でもないのですが、やはり、まずは財政基盤と教育理念をしっかりとさせることが大切ではないでしょうか。それがない私学は、存在価値がないのではないかと思います。
    また、教員と保護者や生徒、塾とのコミュニケーションを深めることが大切です。さらに、理事と教員の対話を深めれば、改革はもっと早く進むと思います。この点は企業でも、学校でも同じように言えることです。今、家庭内での対話が無いと言われます。また、学校では教員どうしの対話も、教員と生徒の対話も以前より減っています。これをもっと活性化すべきだと思います。
    学校が一般の企業と違って厳しいのは、「実績を積み上げるには時間がかかるが、一度評判を落とすとなかなか元には戻れない」という点だと思います。保護者は子どもという、自分の宝物を預けるわけですから、必然的に評価も厳しくなりますよね。ですから、学校が良い状況にあるときに、積極的に改革を進めていくことが非常に重要なことだと思います。