3.私学において「進学実績」が持つ意味とは(3) – 方針の立案とデータ分析

  • 進学実績向上のための4つの条件

    ―「組織力」が相乗効果を作り出す!組織で取り組む進学指導のあり方―

    3方針の立案とデータ分析

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    「進学実績を向上させる」という「目標」を設定した時、先生方は具体的にどのような行動をとられるだろうか。ここで、具体的な取り組みレベルのことを検討し始めることは、「迷走」につながる可能性が高い。細かい部分から検討し始めてしまうと、「木を見て森を見ず」という状況に陥ってしまいがちである。そのような状況を解消するために必要なのが「方針の立案」である。そこで今回は、「方針の立案」について考えていきたい。

    3.1 方針とは?

     「方針」とは、辞書的には「これから進むべき方向性」ということになる。つまり、「方針」とは目指す将来像に近づくための道筋、ということである。「進学実績を向上させる」という目標との関連で考えれば、その目標を達成するための活動の方向付けということになるだろう。その道筋は、太く明確なものが一本あればそれでいい。目標を達成するために、様々なことに手を出したくなりがちではあるが、「方針」はシンプルで明確なものであるべきだ。

     ではどのようにして方針を立てていけば良いのか。それを整理して考えていくために、前回ご紹介をした図を参考にしながら考えていきたい。

     前回も述べたとおり、最終的なゴールは「生徒」の力を引き出し伸ばすことだ。そして、その生徒の力は、さらに細かく「基礎学力」「モチベーション」「受験学力」に分類することができる。まずは、この3つの力のうち、どの要素を伸ばすことを中心に据えるのか、ということを整理するべきである。そうすることで、「方針」はよりシンプルなものになる。

     そして次に重要になるのが、この力を養うために「仕組み」「教員」「手段」の質を、どのようにして上げていくかということになる。「教員」の指導力が十分にあり、有効な「手段」を活用しているのであれば、「仕組み」を充実させるという方針になるだろう。また逆に、「仕組み」も「手段」も充実しているのにも拘らず、「生徒」の力が伸びていないのであれば「教員」の力を伸ばしていくということが、採るべき方針ということになる。

     まとめると、進学実績向上における「方針」とは、「生徒」のどの力を伸ばすのかという方向性と、その力を伸ばすための具体的方向性が掛け合わされたものである。つまり、図3-①にある、9つの象限全てを埋めるという考え方ではなく、特に力を入れるべきポイントを明確にして、その領域に注力していくということが「方針」の立案には必要不可欠なのだ。

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    3.2 なぜ方針が必要なのか?

     まず、改めて貴校の「方針」を振り返っていただきたい。目標の達成に向けた効果的な「方針」になっているだろうか。

     効果的な「方針」なのかどうかを判断する一つの視点は、分かり易くシンプルなものになっているかということ。そして、もう一つの視点は、各々の具体的施策がその「方針」に基づいたものになっているか、というものである。どちらか一方でも当てはまっていないのであれば、早急に見直しを行うべきである。

     「方針」は「目標」の実現に向けて必要不可欠なものである。「方針」は、「目標」を実現するために採るべき方向性であり、実際に行われる全ての具体的な教育活動は、この「方針」に基づいたものでなければならい。「方針」を描くことなく具体的な教育活動について考えていくと、「足し算式思考法」に陥りがちであり、ありとあらゆる手段を講じてみたものの、結局結果にはつながらなかった、ということが起こりかねない。こうなってしまうと、ただ忙しいだけで結果が伴わず、徒労感や疲弊感が学校内に蔓延してしまう。

     つまり、全ての先生方が同じ方向を向いて教育活動に専念することができる体制を作るために、「方針」は必要なのである。

     では、どのようにして「方針」を立てれば良いのかについて考えていくことにしよう。

    3.3 方針づくりのために必要なこと

     方針を立てるにあたり、その前段階として必要になるのが、現状を分析し把握することである。当たり前のことだが、目標に対して今現在自分たちがいる位置を確認することは、目標までの道筋を考えるにあたって非常に重要な一歩になる。

     今の自分たちに何が足りないかを明らかにするためにも、まずは自校の現状を正しく把握することが必要になるのである。そして、この現状把握に関しては、生徒の成績から見える学力の現状と、その学力に至らしめている取り組みの現状の2つが大きなポイントになる。ここからは、どのようにして現状を分析し、把握していけば良いのか、具体的な方法について見ていくことにする。

    3.3.1 成績の分析

     多くの学校では、外部業者の模擬試験を実施しているだろう。しかし、その模擬試験を効果的に活用することができていないケースをよく見る。もちろん、模擬試験の成績が全てを表すものではないが、重要な参考データとして効果的に活用すべきである。

     おそらく、生徒一人ひとりに対しては、その生徒の模擬試験結果を見て指導にあ たられるだろう。しかし、学年全体を集団として捉えて成績データを収集・分析し ている学校はあまりない。生徒の進路指導という意味では、個別指導も有効だろうが、「方針」づくりのための現状把握においては、生徒個別の成績を統合した学年としての傾向や特徴をつかむことができるような分析をするべきである。

     それでは、どのような視点での分析が効果的なのか、その例をいくつか紹介しておきたい。

    ①過年度との偏差値推移比較(図3-②)

     過年度生徒との総合偏差値推移の比較。過去の生徒も含めて俯瞰的に学力の状況をつかむことができる。

     この例では、文系総合偏差値と理系総合偏差値の比較を見ている。2011年の文系の生徒は2010年と比較すると全体的に偏差値が高く、一時若干落ち込んだものの、挽回傾向にある。一方、理系の生徒は2010年とほぼ同様の推移を示している。

     このようなデータから、文系はなぜ2011年のほうが上回っているのか(逆に、なぜ2010年は下降し続けたのか)という分析につなげる。理系も同様である。

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    ②偏差値度数分布推移(図3-③)

     各回の模擬試験における各偏差値帯の分布を推移で見ている。具体的に、生徒の学力層の分布をつかむことができる。

     過去の生徒との比較において、例えば平均偏差値がほぼ同じであったとしても、その内訳が異なる可能性がある。例に示したケースでは、偏差値55以上の生徒が9月までは2010年とほぼ同じだったところ、10月では2010年を10%近く上回っている。2011年は徐々に高学力層が増えてきているということが分かれば、どのような取り組みが、高学力層の増加につながったのかを分析することに焦点が絞られるだろう

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    ③設問別得点率比較

     模擬試験業者によっては、他校の成績データを閲覧することができるようになっているものもある。そのようなデータを入手することができるのであれば、設問別の得点率比較をすると、自校の弱点が見えてくるだろう。

     例えば、紺の帯グラフが自校だとしよう。全般的に他校と遜色のない得点率を出している。特に三角関数については、他校よりもだいぶ良い。しかしながら、図形と方程式については0%となっている。つまりこの分野は、自校における「弱点」と言って良いだろう。そうなれば、当然この分野の得点率の向上は数学の学力向上における必要要素ということになる。

    %e5%9b%b33-%e2%91%a3 この他にも、様々な視点で成績データを活用した分析を行うことが可能である。 このような分析を行うためには、まずは生徒の成績を確実に残しておくことが最低条件となる。そのうえで、データベースのようなものを作り、分析を進めていくことになる。

     1学年が150名の学校であれば、150人分の年間5~6回分の模擬試験データを数年分処理することになるから、その量はかなりのものになる。業者によっては成績処理システムを設けているところもあるので、そのようなシステムを上手に活用することが必要だろう。しかし、自校独自の分析を行おうとするとそれなりの作業が発生することになるので、実施にあたっては分析を行うための十分な体制を整える必要があるだろう。

     また、データの分析は、あくまでも数字上から見えるものを分析しているに過ぎない。数字から読み取れる状況がなぜ起こっているのかというような部分について は、また別の分析が必要になるだろう。それが、教育活動の取り組みの検証ということになる。

    3.3.2 教育活動の取り組みの分析

     模擬試験データの分析から見えてくるのは、主に「受験学力」に対する現状把握である。ここで重要になるのは、<果たして純粋に「受験学力」だけの問題なのか どうかを検証しよう>という姿勢である。そもそも「基礎学力」が不足しているのかもしれないし、学習に対する「モチベーション」が低いのかもしれない。この部分も詳細に検証を重ねる必要がある。

     そこで必要になるのが、教育活動の取り組みの分析である。成績データの分析から見えてきたことの要因を探るために、教育活動の取り組みの現状を分析するので ある。

     この分析に関しては、成績データのような「数字」に基づく分析を行うことはほぼ不可能に近いため、アナログな手法に頼らざるを得ない。具体的には、前出の図 を活用し、9つの象限に現状取り組んでいることを埋めていく手法をお薦めしたい。(図3-⑤)ここに、実際に現在行われている取り組みを落とし込んでいくのである。

     いったん、この作業を行うことで、そもそも取り組みの分量そのものが足りないのか、それとも、分量は十分にあるものの、その質が不十分なのかが見えてくるだ ろう。そういった意味での振り返りを行うことで、どこに注力していくべきなのかの方向性を検討する。

     多くの場合、日々の活動はある種「当たり前」のことのように実践されており、改めてそれらを整理したり、それぞれの取り組みの目的を再確認したりする機会は 少ないのではないだろうか。しかし、取り組みの棚卸しを行うことで、自校の取り組みを客観的に整理することができ、強みと弱みを把握できることが多い。どのような方向性を採るのか、という「方針を描く」際には非常に有効な手段になるだろう。

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    3.4 方針を描く

     現状を把握したら、次はいよいよ方針の立案である。冒頭で述べた通り、方針はシンプルなものの方がいい。それは、「何をやるか」という発想よりも、「何をやらないか」という発想に近いかもしれない。

     先ほど当てはめていただいた9つの項目に入る取り組みを全て満遍なく実施するという方向性もあるのかもしれない。しかし、それでは先生方の意識と力が分散してしまう。注力すべきポイントを「選択」し、そこに持てる力を「集中」させることで、目標達成を目指すのである。

     例えば、「受験学力の向上を目指し、仕組みを整え、教員の指導力を向上させる」という方針であれば、具体的に取り組むことも明確になりやすい。一方、「基礎学力を向上させつつ、学習に対するモチベーションを引き上げ、最終的に受験学力を向上させるために、指導力を向上させるとともに、指導体制を確立する」という方針はいかがだろうか。視点がいくつもになり、結局何をすればいいのかがぼやけてしまいかねない。

     繰り返しになるが、方針を作ることの目的は、教員を同じ方向に向かわせ、力を結集することにある。したがって、現状分析から見えてきた課題をできるだけ明確にし、可能な限りシンプルな方針にするべきなのである。

    3.5 方針から具体的施策へ

     シンプルな方針を構築することができれば、そこから導き出される施策も具体的なものになる。やるべきことが明確になるからだ。つまり、方向性にブレがなくなる。ここまでくれば、あとはより効果的な施策を作り上げ、それを着実に実行に移すだけである。

     とは言え、実際にはそれぞれの取り組みを行うにあたっても、細かい部分で注意すべきポイントはある。ただ、それはその取り組みによって違うものになるので、ここで言及することは避けたい。

     いくつかの学校で、「進学実績の向上」を目的とした支援をさせていただいているが、実績の向上という入り口は同じでも、抱えている課題はそれぞれであるし、そこで採られる方針は様々である。取り巻く状況が違うので、それは当たり前のことである。したがって、他校の成功事例をそのまま自校に移植すれば成功が約束されるというものでは決してない。ただ、それでもいくつかの共通した課題とそれを解決するための共通した取り組みはある。ここでは、その代表的なものを例として3つ紹介しておきたい。それは、「授業力の向上」「進路指導体制の構築」「生徒のモチベーションの向上」である。

     次号以降では、ここに挙げた代表的な3つの取り組みについて、私たちが支援をさせていただいた事例を紹介しながら効果的な進め方について考えていくことにする。

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