進学実績向上のための4つの条件(1)

  • 1.私学において「進学実績」が持つ意味とは

     今、世の中では、「日本社会は今後『学歴社会』ではなくなるのか、なくならないのか」という議論がある。ここで言う『学歴社会』とは、おそらく「最終学歴が人生に大きく影響を与える社会」を意味しているだろう。そうなるのか、ならないのかの結論を導き出すには相当の時間がかかる。社会を取り巻く様々な要素を考慮に入れて考えなければならないからである。したがって、今回のこのレポートにおいては、その部分に関する議論を差し控えたい。

    しかしながら、私たちが暮らす社会には厳然たる事実がある。それは、少なからず「就職」という一時点を切り取って考えてみれば、未だなお『学歴』が大きな影響を与えるということである。これは、企業の人事担当者や今まさに就職活動の真っ只中にある就活生に話を聞いても明らかである。つまり、良し悪しは別にして、上位の大学に進むことは今なお若者たちの将来を考えるにあたっての重大事であることに間違いはないのである。

    本質的な部分の議論は別の機会に譲り、今回は「より上位の大学へ進学するための進路・進学指導」を中心テーマにレポートしていきたい。

     

    1.「5人に3人」はMARCH以上を望んでいる

     私たちコアネット教育総合研究所では、5年に1回、「私立中学の校風調査」というアンケート調査を実施している。日能研に通う受験生保護者5600名から有効回答をいただいており、ある程度信憑性のあるデータだと考えて良いだろう。(表1-①)

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    この調査では、各校の認知度やイメージを聞いている他、学校選択の際に重視するポイント、さらに卒業後の希望進路についても聞いている。その結果をご覧いただきたい。偏差値40未満の男子受験生の保護者でも、実に60%以上の方がMARCHレベル以上の大学への進学を望んでいるのである。(図1-①)同様に、女子でも偏差値40未満の受験生保護者の約半数に当たる45%の方がMARCHレベル以上を望んでいる。(図1-②)「より上位の大学へ」という意識が保護者の中にあることを端的に表しているのではないだろうか。

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    また、同じ調査では、進学先を選ぶ際に重視するポイントを聞いているが、そこでも「進学実績が良いこと」は、総体的に順位が高い。(表1-②、青の網掛け)すなわち、「事実」として保護者は学校に「進学実績」を求めているのである。

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    2. 進学実績は学校の総合力を表す!

     「進学実績は受験生・保護者からのニーズである。したがって、学校はそのニーズに応えるべく、実績向上に向けて努力しなければならない。」という論理は、いかにもドライで、機械的な印象を多くの方が受けるかもしれない。実際、進学実績以外の部分でも学校が持つ価値はある。したがって、進学実績を上げることだけに終始することは決して学校としての望ましい姿ではない。学校には、塾とは違う、また別の役割や魅力があるはずである。

    当然私たちも、進学実績という「数字」が全てだとは考えていない。ただ、教育活動の成果を示す「モノサシ」のひとつであることには間違いはない。なぜなら、ひとつの「合格」には様々な要素が絡みあっているわけであり、そういった意味では、進学実績は学校における「様々な教育活動の連鎖」の賜物とも捉えられるからだ。

    したがって、私たちは、「学校としての総合力をもって実績向上を目指す」という方向性を志向する。学校だからこその価値がそこにはあるはずであり、私学であればなおさら小手先ではない本質的な進学指導を目指すべきだと考えるからである。

    先ほど、校風調査の結果として、学校選びのポイントとして「進学実績が良い」ことが上位に挙がっていると紹介した。しかしその一方では、「子どもの学力を伸ばしてくれる」「学習についてのフォローがしっかりしている」など、学習指導・フォローに関する項目も上位に挙がっている。(表1-②、緑の網掛け)受験生の保護者も、単に実績が良ければそれで良いというわけではなく、そこに至るプロセスも重視しているということなのである。

    3. まずは「現状把握」から

     これまで、受験生・保護者の視点も含めながら、進学実績が私学においてどのような意味を持っているのかを考えてきた。

    社会からの要請に応えるという点で、もちろん進学実績は大きな意味を持つ。しかしながら、進学実績が学校の総合力を表すもののひとつと捉えれば、その教育力を向上させて総合力を蓄え、結果としての実績向上を目指すことは、教育機関である学校が目指すべき方向とも言えるのではないだろうか。

    では、実績向上を目指す時に、まず初めにすべきことは何か。それは、「自校の現状を正しく把握する」ことである。どこが強みで、どこが弱みなのか。どこをどう伸ばし、修正していくべきなのか。冷静な目で的確に評価をすることから始めるべきである。

    そして、その現状分析から見えてきたことを基に「戦略」を策定し、さらに具体的な施策を検討していくという流れが、進学実績の向上に向けてとるべき方向性なのではないだろうか。

    以上のように、学校にとっての「進学実績の向上」とは、受験生・保護者のニーズに応えるという意味合いだけではなく、自校の総合力を示すための手段のひとつと捉えることもできる。したがって、まずは自校の教育力を再点検することが、最も根源的なポイントと言えるだろう。そして私たちは、進学実績を向上させるためには、最終的に4つの条件が必要であると考えている。それは、「指導力」「組織」「手段」「生徒」である。今月から月に1回6ヶ月にわたって発行するこのレポートの次号では、その4つの条件について具体的に説明していきたい。

    (2016年10月)

     

    <著者紹介>
    コアネット教育総合研究所 横浜研究室室長 福本雅俊
    私立高校の教員を経て、2006年コアネット教育総合研究所に入社。
    現在は「キャリア教育」を主領域としながら、教育活動に関する支援を中心に生徒募集活動支援など、学校経営を全般的にサポートしている。