私学におけるマーケティング戦略(3)

  • 中高マネジメントReport

    第3回 セグメンテーションの実際

     マーケット・セグメンテーションを正確に行うことは実際には容易ではない。企業では、通常、大規模な「マーケティング・リサーチ」を行い、それを分析することで、セグメンテーションを行う。しかし、私学一校単位で大規模なリサーチを行うことは難しい(外部の研究所などに委託すれば可能であるが、規模に応じたコストがかかってしまう)。
     そこで、現実に可能な方法として、「マーケットの概況は一般的な調査によって把握し、細かくは自校で可能な範囲、規模、方法で代替する」という方法が考えられる。
     2002年に私学69校にご協力いただいて我々が実施した小学校高学年の子どもを持つ保護者に対する大規模調査は、マーケットの概況を把握することに役立つと思われる。しかし、この調査では、各校の独自の視点から質問項目を設定していないので、学校ごとの詳細なマーケット把握、セグメンテーションにはやや情報が不足している。
     このような全体概況のデータと併せて、自校で可能な範囲での独自リサーチを行うことをお奨めしたい。
     一例として、自校に興味を持った受験生を対象としたリサーチを行うことがあげられる。最近は、多くの学校で、説明会参加者などにアンケートをとっていると思うので、これを活用したらいいだろう。
     ただし、説明会場で記入してもらうアンケートでは、あまり多くの質問を出来ないことと、受験を希望している以上、悪いことは正直には書けないという点でかなり制約がある。
     私たちが推奨しているのは、「入学者・非入学者アンケート調査」という、募集活動時に収集した受験生保護者の名簿を活用して、入試が終わった後(次年度)に改めてアンケート調査を行うことである。
     もちろん、これらの受験生は、めでたく入学した生徒もいれば、合格しながら他校へ進学してしまった生徒、不合格になった生徒、結局出願さえしなかった生徒など様々なタイプに分かれる。
     不合格者は別として、同じ「興味を持った受験生の保護者」の中で、なぜ出願した人もいれば、出願しなかった人もいるのか、また合格者の中でも、なぜ入学した人と入学しなかった人に分かれるのか、そのあたりを詳細に見ていくことによってマーケットを正確に把握できる。
     もちろん、試験日程の問題や他校との併願状況など、色々な要因が関わってくるが、データをつぶさに見ていくことによって、自校が狙うべきセグメントが見えてくると思われる。
     詳しい分析の方法はここでは割愛するが、私たちがお手伝いしてアンケートを実施した学校では、様々な課題が浮き彫りになった事例が多い。

     

    自校の強み・弱みを把握しているか

     マーケティングを進めていくときに、気をつけなければならないのは、マーケットの言いなりになってはいけないということである。マーケティングを教科書的に整理すると、「ニーズを捉えて、それに合ったサービスを提供しましょう」ということになるが、私学は「ミッション」をベースに存在しているので、自らの使命(建学の精神や教育理念)を忘れてはいけない。
     そこで、行わなければならないのは、「自校が提供している(はずの)教育がどのように顧客(生徒および保護者)に受け止められているのか」ということを把握することである。
     マーケットの言いなりになってもいけないが、自分たちの考えているものだけを押し付ける自己満足になってもいけない。実際に行っている教育活動が生徒や保護者にどう評価されているのかを常に意識しておかなければならないのだ。
     学校の取り組み全般を聞くときには、「学校満足度アンケート調査」を行う場合が多い。対象は、生徒本人および保護者のいずれか、または両方である。学校に対して総合的にどの程度満足しているかということだけでなく、様々な項目について実現できているかどうかを聞く「実現度」を捉えることができる。
     そして、もう一つ、行われている授業について個々に詳細な評価を把握したいときは、「生徒授業評価アンケート調査」を実施するとよい。
     生徒授業評価アンケート調査は、質問する項目は簡単なもので構わないと思う。例えば、「授業は理解しやすかったですか?」「先生の声は聞き取りやすかったですか?」などである。ただし、気をつけたいのは、一般的な項目だけでなく、自校として特に注力して取り組んでいることがあれば、それを評価できる項目を入れておかなければならないことである。
     例えば、親身な指導を強みとしているのであれば、「先生は親身になって指導してくれましたか?」という質問項目を入れておくべきであろう。また、授業において興味を喚起することが自校の特長であれば、「授業を受けてより興味がわいてきましたか?」などの質問を入れておくとよいだろう。
     逆に、自校の弱点だと考えられる点についても、それを克服するという意味で、アンケート項目として設定してもよい。
     学校満足度アンケート調査を行うと、自分たちが考えていたこととは異なる結果が出ることがある。学校の教育理念にもあり、自分たちが強みだと思っていたことが、生徒や保護者からは全く評価されていなかったということもある。その場合は、それをどう改善するのかを検討し、具体的な行動に移さなければならないのだが、具体的に改善した行動の評価は、このような生徒授業評価アンケート調査などで質問項目を設定することで捉えることができる。
     自校の強み・弱みをきちんと把握し、自校の目指すべき教育と生徒・保護者の求める教育を考え併せることで、今後行っていくべき新たな教育の道が見えてくるだろう。

     

    いかに教育実践を変革できるか

     調査を行うことで、生徒や保護者のニーズの変化も分かり、従来の教育内容や教育方法を変えていく道筋が見えたとしても、実際に「実践」として変えていくことは容易ではない。なぜかというと、教育を実践しているのは、教職員一人ひとりであり、全員に生徒・保護者のニーズの変化やそのことによる教育内容・教育方法の変革の必要性を認識してもらわなければならないからである。
     調査の結果を管理職や広報担当だけで検討するのではなく、教職員全員に開示する必要がある。そして、その結果をもとにして教職員全員で議論すべきであろう。
     教職員の多くは、常に学校の中で仕事をしているため、外界の動向には鈍感である。一度、自分の立場から主観的に調査結果を捉え、自らの意見を持つことが必要である。その方が後々の実践につながると思われる。
     全教職員の集まる場で検討することも大切であるが、一方で深い議論をするためには、少人数のグループに分かれて話し合いをすることも必要である。グループ分けは、教科別、学年別、分掌別などの既存の組織で行ってもよいし、世代別や完全任意のグループ分けも新鮮な議論ができるので効果的である。
     いずれにしても、言いっ放しの無責任な話し合いではなく、自分たちが新たな教育を作っていくのだという自覚と責任を持って討議をしてほしい。真剣な討議の過程では様々な意見の相違やぶつかり合いも起こると思われる。しかし、それを恐れず、全員がホンネで話し合うところから真に価値のある教育が生まれてくると思われる。
     マーケティングは、広報や入試担当など一部の教職員の仕事ではない。自校の建学の精神や教育理念を実践し、成果に結び付けていくために、理事・管理職から教職員全員までが主体的に関わって行うべきものである。
     自校にとってマーケティングとは何か、いかに実践していくべきか、再度自らに問うてみてほしい。

     

    次回は、シリーズ最終回です。「私学のプロモーション戦略」について考えていきます。